こんにちは、SCSKの木澤です。
当社では2022年8月25日に「事例から読み解く!NetApp on AWSでファイルサーバをクラウド化するポイント」と題しまして、AWS上でファイルサーバを実現するポイントや関連サービスの説明、当社ファイルサーバ移行事例のご紹介などをお届けするウェビナーを開催しました。本ウェビナーには多数のご参加を頂き、誠にありがとうございました。
(現在アーカイブ配信も行っておりますので、お時間あるときにご覧下さい)
今回は本ウェビナーでお届けした内容の要点をかいつまんで、AWS上でファイルサーバを実現するにあたっての各種の方式と選択のポイント、また導入にあたっての勘所について解説したいと思います。
クラウド上でファイルサーバを構築するということ
ファイルサーバの特徴・課題
まず最初に、ファイルサーバの特徴についておさらいしたいと思います。
ファイルサーバは組織内の大量の情報を保管し、その中には機密性の高い重要なデータも多く含まれます。
また、古いデータが残って容量が増加しがちかと思います。
ファイルサーバは従来、オンプレミスのでサーバOSもしくは専用ストレージ筐体を用いて構築することが定番でした。
そのため、ファイルサーバの構築・運用にあたっては以下のような課題が常にありました。
- 高額な初期費用が発生する
耐用期間内に必要となるであろう性能・容量に合わせてサイジングする必要があり、高額なハードウェアを購入する必要がある。 - キャパシティ管理や定期的な増設対応が必要になる
容量や性能上限に関する使用状況をモニタリングし、必要に応じてディスクの増設等の対応が必要になる。 - ハードウェアEOLに合わせた定期的なリプレイス、及びデータ移行作業
ハードウェアのサポート切れに合わせて数年に一度、定期的なリプレイスが必要になる。
またそれに合わせてデータ移行作業を行う必要がある。 - 日頃の運用の手間が掛かる
オンプレミスのハードウェア、特にディスク装置はどうしても故障がつきもの。
故障が発生した際は交換作業が必要ですし、障害に備えてバックアップを取得/管理する必要もあります。
ファームウェアのアップデート等が必要になることもあるでしょう。
こうした課題があり、ファイルサーバは比較的「面倒な」部類に入るかと思います。
クラウドによる解決
現在、これらの課題についてもクラウドを活用することで改善できるようになりました。
クラウドサービスは基本的に初期費用無しの従量課金ですので、データ量の増減に合わせて柔軟にスケールすることができます。ハードウェアEOLの呪縛からも解放されますし、クラウドの機能により運用の手間も一定レベルオフロードすることが可能です。
(詳しくは後述します)
AWS上でファイルサーバを実現する方式と選択指針
AWSのストレージサービス
AWSのストレージ関連サービスのうち、実際にストレージを提供するサービスは3種類に大別できます。
- ブロックストレージ:EC2インスタンス等に接続するディスク
- ファイルストレージ:ネットワーク経由で利用するストレージ
- オブジェクトストレージ:API経由で利用するファイル単位で格納するストレージ
今回はクライアントPCから直接接続する想定のため、ファイルストレージについて採りあげます。
AWSにおけるファイルストレージはAmazon EFSとAmazon FSxシリーズがありますが、Amazon EFSは容量無制限でMulti-AZ配置の特徴があるものの、NFSv4での提供でWindows OSからマウントできないことや性能面での課題もあるので、クライアント向けのファイルサーバ用途には利用されません。
そのため、ファイルサーバのユースケースではAmazon FSxシリーズのサービスから選択することになります。
AWSでファイルサーバを実現する製品/サービス
さて、AWS上でファイルサーバを実現する方法として、主に3つの製品/サービスがあります。
- Amazon FSx for Windows File Server(Windows Serverベースのマネージドサービス)
- NetApp Cloud Volumes ONTAP(CVO)
- Amazon FSx for NetApp ONTAP(FSxN)
各方式の概要を以下に記します。
- Amazon FSx for Windows File Server
Windows Serverベースのマネージドファイルサーバ。
Windows Server OSベースの機能+AWS Backup連携のバックアップ機能提供。 - NetApp Cloud Volumes ONTAP(CVO)
AWS Marketplace上で販売されている、NetApp社のストレージ製品(EC2として展開される) - Amazon FSx for NetApp ONTAP(FSxN)
NetApp社製品ベースのフルマネージドファイルサーバ
NetApp系の後2つの製品/サービスは最低でも一定の費用が掛かるため、Amazon FSx for Windows File Serverは小~中規模、CVOとFSxNのNetApp系は中~大規模のファイルサーバ向きと言えます。
なお、NetApp Cloud Volumes ONTAP(CVO)とAmazon FSx for NetApp ONTAP(FSxN)の違いについては後述します。
これらの他にも、Amazon EC2でWindows Serverを立ちあげるという方法も考えられますが、Multi-AZの要件が発生したときにデータ同期(レプリケーション)と障害時の切替(フェイルオーバー)の機能を、Windows DFSやサードパーティー製のクラスタウェアなどを用いて自前で実装する必要があり、構築・運用負荷が高くなるためお勧めできません。
NetApp製品ベースのサービスについて
CVOとFSxNの両者は、ともにNetApp社ストレージソリューションをベースとした製品ですが、以下のような特徴があります。
- ONTAPのユニファイドストレージをAWS上で実現できる
- AWSインフラのメリットを享受できる
- データ圧縮に関する各種機能が利用できる
- 性能とコスト最適化を両立できる
- 高可用性構成を採ることができる
- AWS譲りの運用管理機能を利用できる
1つ1つ概要をご説明します。
特徴
ONTAPのユニファイドストレージをAWS上で実現できる
NetApp社はユニファイドストレージ分野での業界最大手となりますが、汎用OSではなく独自のストレージOSであるONTAPをベースに開発・提供されていることが特徴となっており、後述する各種の先進機能を率先して取り入れています。
またCVOやFSxNではONTAPの機能をAWSインフラ上で利用できるため、AWSインフラとONTAPが提供するストレージ機能の「良いところ取り」ができることが特徴となっています。
両者ともSMB・NFSによるファイルストレージと、iSCSI提供によるブロックストレージとして利用できますので、VMware Cloud on AWSでのデータストアや、サーバ間での共有ストレージとしても利用することが可能です。
AWSインフラのメリットを享受できる
クラウド利用のメリットである柔軟性(アジリティ)を享受することができます。
クラウドサービスは原則として初期費用無しの従量課金となりますので、データ量の増減に合わせて柔軟に変更することが可能です。
また、ハードウェアのEOLに合わせたリプレイスやデータ移行も不要になりますし、ハードウェアの管理はクラウド側にオフロードされるため、面倒なハードウェア障害に関する対応も不要になります。
性能とコスト最適化を両立できる
CVOやFSxNにはコスト最適化のための各種機能が備わっています。
- 圧縮
データ圧縮することで容量削減する機能 - 重複排除
重複する内容のブロックを共通化することで容量削減する機能 - コンパクション(ブロックデータ最適化)
使用率の低いブロック同士を統合して保存することで容量削減する機能 - シンプロビジョニング
見かけ上の容量を大きく確保しつつ、実際のディスク領域は少なくできる機能 - ストレージ階層化
使用頻度の低いデータを、より低価格なストレージに移動しコスト削減する機能
特に特筆すべき機能はストレージ階層化機能でしょうか。
古いファイルを削除できずに容量が肥大化するのはファイルサーバの「あるある」ですが、そのような環境ではストレージ階層化機能によりよりコスト削減の恩恵を預かることができます。
引用:AWS Blackbelt Online Seminar (Amazon FSx for NetApp ONTAP)
高可用性構成を採ることができる
CVOやFSxNでは、ビジネスユースのファイルサーバでは必須の高可用性構成を採ることが可能です。
Multi-AZあるいはSingle-AZ、いずれも2インスタンス以上でのHA構成構成が採られます。
なお、DNSでのフェイルオーバー方式ではなく、Floting IPを用いた高可用性構成となります。
そのためMulti-AZ構成の場合はフロントにTransit Gatewayを設置して、Active側にルーティングする構成とする必要があります。
Transit Gatewayは通信量に対する課金が掛かるため、課金額が増える可能性があります。
課金を抑えたい場合はSinlgle-AZの構成から検討することが望ましいです。
AWS譲りの運用管理機能を利用できる
監視やバックアップ等もクラウド内の機能を活用できるので、管理負荷の軽減に繋がります。
バックアップに関しては以下両方が使えます。
- AWS譲りのバックアップ機能(EBSスナップショット相当)
- NetApp譲りのスナップショット機能(ボリュームシャドーコピー[VSS]連携)
オンプレミス連携やDRに利用できるレプリケーションは、NetApp譲りのSnapMirror/SnapVaultの機能が活用できます。
(オンプレミスのNetAppストレージからの移行にも利用可能)
主要な稼働情報はCloudWatchメトリクスに出力されていますのでこれを用いてモニタリング/監視も可能です。
NetApp Cloud Volumes ONTAP(CVO)と Amazon FSx for NetApp ONTAP(FSxN)の違い
NetApp Cloud Volumes ONTAP(CVO)とAmazon FSx for NetApp ONTAPにの違いに注目すると、基本機能に大きな違いはありません。
主な違いは以下のようになります。
- Marketplaceで販売されている製品を用いて展開するか、フルマネージドにするのか
- バージョン管理を自前で行うのか、AWS管理とするのかどうか
- オンプレミスのNetAppソリューションとの統合に注目するのか
- 大阪リージョンで利用したいかどうか
オンプレミスのNetApp社ストレージとの統合管理や大阪リージョンの点が影響しないのであれば、大規模ファイルサーバのクラウドにおいてはAmazon FSx for NetApp ONTAPから検討するとよいかと思います。
SCSKファイルサーバ事例の紹介
SCSKでは全社員向けのファイルサーバをAWSに移行しました(2021年)
なお、Amazon FSx for NetApp ONTAPリリース前の2020年に選定を行ったため、NetApp CVOを採用しました。
事例ページもご紹介します(内容が少し古いですが)
要件と対応内容
従来のファイルサーバは(NetApp製ではない)オンプレミスのストレージ機器を用いていましたが、以下の課題がありました。
- アクセス集中時のパフォーマンス劣化
- 容量の増加(枯渇間近)
また、新しいファイルサーバの導入にあたっては以下の要求ありました。
- ユーザの使い勝手を維持
- 耐障害性の向上
- 大容量(100TB超)の移行を考慮
以上を踏まえ当社ではクラウド型ファイルサーバを選定し、製品としてはNetApp CVOを採用いたしました。
- パフォーマンスの改善
サイジングが困難であるため、オンデマンドにリソース変更が可能なクラウド型ファイルサーバを採用 - 容量増加への対応
アクセス頻度が低い古いファイルが多いと推測。ストレージ階層化機能でコスト削減に期待 - ユーザの使い勝手を維持
AWS上で利用可能なファイルサーバソリューションを比較し、NetApp CVOを採用 - 耐障害性の向上
コスト面でマルチリージョンは見送ったが、Multi-AZ構成を採用することで従来よりも耐障害性は向上 - 大容量のデータ移行
旧ストレージがNetApp製で無かったためSnapMirrorを利用できなかったが、他社製データ転送ソフトウェアで対応。
プロジェクトは、旧ハードウエアのEOLである2021/2を期限に向けて進められました。
移行するデータ容量が多いため、可能な限り移行期間を長く取るようにスケジュールが計画され、無事予定通り移行を完了しました。
導入効果
無事SCSKファイルサーバはAWS上に移行され、2021年より安定稼働しています。
私もいちユーザとして利用しておりますが、現在でも特に不満は無く利用できています。
- ストレージのレイテンシーやIOPS
ファイルシステムとしてのレイテンシーやIOPSを監視しており、瞬間的に劣化することはあるが通常時は安定 - サーバのCPU使用率
平均して30%以下。なお、今後負荷が高まった際にはスケールアップが可能 - 圧縮・重複排除
予定通りの効果でコスト削減に貢献 - ストレージ階層化機能
想定以上の効果を発揮し、大きくコスト削減に貢献
時々、読み出しにワンテンポ遅れるような挙動をするファイルがあり、このファイルはキャパシティプール層に保存されていたのかな?と想像すると興味深いです(ユーザの不満が出るほどではない)
以上でした。
詳細なデータはウェビナーにて導入担当者よりご説明しております。是非ご覧頂ければと思います。
ファイルサーバの導入・移行にあたっての勘所
クラウドファイルサーバの導入・移行については留意すべき項目が多いと感じます。
- ネットワークの接続方式
ユーザ数見合いではありますが、回線サービス+Direct Connectの利用は必須となることが多いでしょう。 - 既存ID管理との連携
Active Directory等、既存ディレクトリとの接続方法 - 移行方式
移行手段とタイミング - 運用管理
バックアップ・監視方式など - セキュリティ運用
アクセス監査・マルウェア対策など
特に移行にあたっては「銀の弾丸」は無いと言って良いでしょう。
既存ユーザへの影響を最小限に抑えつつ、移行を進めるには綿密な計画が必要になります。
全体的に検討すべき項目が多いため、これらの検討が重要になります。
- 実績や検証に基づく方式選定
- 計画通り構築・移行を完遂するための移行設計
- 導入後の安定稼働に向けての運用設計
実績・経験に基づくプロジェクト計画が重要と考えております。
まとめ
以上、AWSクラウドにファイルサーバを移行することについての概要や選択基準を説明いたしました。
検討にあたっての材料として参考にして頂ければ幸いです。
なお、最後に宣伝させてください。
弊社SCSKは以下の特徴を兼ね備えていると思っています。
- 豊富なAWSへのマイグレーション実績がある
- 自社ファイルサーバもAWSに移行し移行・運用のノウハウを蓄えている
なお、SCSKはAWSへの移行スキルを認定するマイグレーションコンピテンシーや、AWSでの次世代運用サービスを提供していることを証明するMSPコンピテンシーなどを取得しております。
だからこそ、当社だからこそできるファイルサーバのAWS移行がご提案できると自負しております。
- 最適なインフラ構成
- 最適な移行プラン
- 最適な運用プラン
ファイルサーバ移行に関するご相談も、ぜひSCSKにご相談頂ければと思います。
ご希望の方はサイトメニューのお問い合わせよりお願いします。ありがとうございました。