クラウドベンダーと利用企業がそれぞれの責任を分担する「責任共有モデル」は、クラウドセキュリティの基本概念として広く認知されています。しかし、利用企業の中では具体的に「誰が」セキュリティの責任を負うべきなのでしょうか? 情報セキュリティ担当部門なのか、それとも実際にクラウドを運用する部門なのか――この問いについて考察します。
※本ブログでは、企業の情報セキュリティ部門とクラウド運用部門のどちらがパブリッククラウドのセキュリティ責任を担うべきかを論じています。ただし、企業の規模やクラウドの利用方法によっては、セキュリティ管理の階層がより細分化されているケースもあるため、自社の組織構造に合わせて読み替えていただければと思います。
パブリッククラウドのセキュリティリスクと影響
パブリッククラウドを利用する企業にとって、クラウド上で発生するセキュリティインシデントは重大なリスクです。 データ漏洩、不正アクセス、設定ミスによる情報公開などの問題が発生した場合、企業に与える影響は以下のような形で現れます。
財務的損失 | 報漏洩による賠償責任や罰則、ブランド価値の低下 |
事業継続への影響 | システムダウンやデータ消失により業務が停止 |
顧客・取引先の信頼低下 | データ流出等により企業への信頼が損なわれ、契約解除や取引縮小が発生 |
インシデント対応の負担増 | 調査・復旧・再発防止策の実施に膨大な時間とコストが必要 |
このような影響を踏まえると、企業内のどの部署が責任を持つべきなのかを明確にすることは極めて重要です。
情報セキュリティ担当部門の役割
一般的に、企業の情報セキュリティ担当部門は社内全体のセキュリティポリシーの策定や管理を担っています。 この部門は以下のような活動を行います。
セキュリティポリシーの策定と適用 | 社内全体のガイドラインを定め、適用を監督 |
リスク評価と対応策の検討 | 脅威分析を行い、必要な対策を実施 |
インシデント発生時の対応 | 影響範囲の調査、原因分析、再発防止策の策定 |
一方で、クラウド環境の具体的な設定管理や運用は担当しない場合が多く、技術的な詳細についてはクラウドの運用者に依存します。
クラウド運用部門の責任
クラウドを実際に運用する部門(IT部門やクラウド専門チーム)は、クラウド環境の設定や運用管理を担います。 そのため、セキュリティリスクの多くがこの部門の手に委ねられることになります。
適切なアクセス管理 | IAMの設定、権限付与の管理 |
セキュリティ設定の維持 | 暗号化の適用、ネットワーク設定の監視 |
監視とインシデント対応 | ログ分析やアラート対応 |
特にクラウドでは 設定ミス が大きなセキュリティリスクとなるため、実務レベルでセキュリティを担保するのは運用者の責任だともいえます。しかし、クラウド運用者にセキュリティの責任を集中させることには以下のような課題があります。
- 業務の幅広さによる負担
クラウド運用者はセキュリティだけを専門に扱っているわけではなく、システムの運用・保守、パフォーマンス監視、コスト管理など多岐にわたる業務を担当しています。 そのため、セキュリティの向上に特化した取り組みを行う時間やリソースを確保することが難しいという問題があります。 - 最新のセキュリティ情報を常に把握する難しさ
クラウドサービスは頻繁にアップデートされ、新しいセキュリティ機能が追加されます。 例えば、AWSやAzureでは定期的にセキュリティ強化のための新機能がリリースされますが、これらを常に追い続け、適切に導入することは運用者にとって負担となります。また、新たなセキュリティ脅威も日々登場するため、運用者が最新の脅威動向を把握し、それに対応するのは容易ではありません。 - 責任の曖昧さによるリスク
クラウド運用部門がセキュリティ対応を担当すると、情報セキュリティ部門との責任分担が曖昧になることがあります。 たとえば、セキュリティポリシーの策定は情報セキュリティ部門が担当するが、クラウドの実際の設定は運用者が行うという形になった場合、 「どこまでが運用者の責任で、どこからが情報セキュリティ部門の責任なのか」が不明瞭になり、対応が遅れる可能性があります。 - スキルのばらつきによるリスク
クラウド環境では、アクセス権限の管理、ネットワーク設定、暗号化の適用など、細かいセキュリティ設定が求められます。 経験豊富な運用者であれば適切な設定を行えますが、知識が不足している運用者の場合、設定ミスや見落としが発生しやすくなります。特に複数のクラウドサービス(AWS、Azure、GCPなど)を利用している場合、クラウドサービスの理解度によって大きく違いがでます。 結果として、システムの一部に脆弱性が残り、攻撃者に狙われる可能性が高まります。
結論
情報セキュリティ担当部門とクラウド運用部門のどちらが最終的な責任を持つべきなのか、という問いに対する答えは、「どちらも重要な責任を持つが、役割が異なる」という点にあります。
情報セキュリティ担当部門 | 企業全体のルールを定め、監督する責任 |
クラウド運用部門 | 実際の運用・設定管理を行い、セキュリティリスクを防ぐ責任 |
クラウド環境では技術的な管理がセキュリティの質を大きく左右するため、クラウド運用部門が重要な役割を果たしますが、それを監督する情報セキュリティ担当部門も不可欠です。企業内で明確な責任分担を定め、双方が連携して取り組むことが、クラウドセキュリティを確保する重要なポイントとなります。
ただし、これだけではクラウド運用者の負担が大きく、セキュリティの課題を根本的に解決することは困難です。そのため、情報セキュリティ担当部門主導でクラウドセキュリティ製品の導入を積極的に検討することが、より効果的な解決策となります。
特に、CSPM(Cloud Security Posture Management) を活用することで、 クラウド環境のセキュリティ課題を効率的かつ継続的に解決することが可能となります。
CSPMが有効である理由
- クラウド設定の継続的な監視と評価
CSPMはクラウド環境の設定ミスやポリシー違反を自動で検知し、推奨されるセキュリティ基準と比較しながら、リアルタイムで改善案を提示します。そのため、運用者が手動で監視する負担が減り、適切なセキュリティ管理が継続的に行えます。 - クラウド環境ごとの統一的なセキュリティ管理
企業が複数のクラウド(AWS、Azure、GCPなど)を利用している場合、各クラウドサービスごとに異なるセキュリティ設定を管理するのは非常に困難です。CSPMを導入すれば、異なるクラウド環境を統一的に監視・管理し、セキュリティレベルのばらつきを防ぐことができます。 - インシデント発生前のリスク軽減
多くのセキュリティインシデントは、設定ミスや限管理の不備によって引き起こされます。CSPMはこれらの問題を事前に検知し、脆弱な設定を未然に防ぐことで、インシデント発生リスクを低減できます。
CSPMの導入で、人的リソースと技術を組み合わせた最適なセキュリティ対策を
クラウド運用者の責任だけに頼るのではなく、CSPMを活用することで、より効率的かつ継続的なセキュリティ管理が可能となります。 これにより、情報セキュリティ部門とクラウド運用部門の連携が強化され、負担を分散しながら適切なセキュリティ対策を実現することができます。
おわりに
パブリッククラウドの活用が広がる中、セキュリティリスクへの対応を「人」に依存するのは限界があります。属人的な管理では対応の抜けやミスが発生しやすく、組織全体のセキュリティレベルを維持するのが難しくなります。そのため、自動化されたツールの活用が不可欠です。
最近では「CNAPP(Cloud-Native Application Protection Platform)」という概念が注目されていますが、まずは基本となるCSPMを導入し、確実なセキュリティ対策の第一歩を踏み出すことが重要です。CSPMを活用することで、クラウド環境の設定ミスや脆弱性を検出し、適切な対応を行うことが可能になります。そしてセキュリティ強化のためCNAPPの導入を検討していきましょう。CNAPPには複数のセキュリティの要素が含まれる(CSPMも含みます)ため計画的に導入することを推奨します。
当社ではクラウド診断サービスやマネージドCSPMサービスを提供していますので、ご興味のある方は是非、お気軽にお問い合わせください。