LifeKeeperの『困った』を『できた!』に変える!サポート事例から学ぶトラブルシューティング&再発防止策
こんにちは、SCSKの前田です。
いつも TechHarmony をご覧いただきありがとうございます。
システムを長く安定して運用する上で、避けて通れないのが「OSのアップデート」や「セキュリティパッチの適用」です。「脆弱性が見つかったので、カーネルの更新をお願いします」といったタスクは、インフラエンジニアにとって日常茶飯事かもしれません。
しかし、HAクラスターシステム、特にデータをリアルタイムで保護するDataKeeper環境において、この「いつものアップデート」が思わぬトラブルの引き金になることがあります。「OSのメジャーバージョンは変わらないから大丈夫だろう」と高を括っていたら、メンテナンス当日にリソースが起動せず、顔面蒼白に…なんて事態は絶対に避けたいですよね。
本連載企画「LifeKeeper の『困った』を『できた!』に変える!サポート事例から学ぶトラブルシューティング&再発防止策」では、実際にサポートセンターに寄せられた「生の事例」を紐解き、安定運用のための知恵を共有していきます。
今回からは、多くの運用担当者が直面する「OSやLifeKeeper本体のバージョンアップ」に伴うトラブルにフォーカスを当てていきます。
その第一弾となる今回は、最も見落とされがちな「OSカーネルの更新」について。「OSのバージョン数値は変わっていないのに動かない!?」というミステリーの真相と、確実に成功させるための回避策について解説します。
はじめに:そのアップデート、「OSバージョン」だけ見ていませんか?
今回の記事のテーマは、ズバリ「OSのカーネルアップデート」です。
一般的に、OSのメジャーバージョンアップ(例:RHEL 8から9への移行)を行う際は、アプリケーションへの影響調査や入念な検証計画が立てられます。一方で、マイナーバージョン内でのカーネル更新や、パッケージのセキュリティパッチ適用(dnf update)は、比較的軽い気持ちで、あるいは自動的に実施されているケースも少なくありません。
しかし、LifeKeeper、とりわけデータをリアルタイムで複製する「DataKeeper」をご利用の環境において、この「軽微なアップデート」という認識は禁物です。なぜなら、DataKeeperは単なるアプリケーションではなく、OSのカーネルモジュールとして動作しており、「OSのリリース番号(8.1など)」よりも「カーネルのバージョン(4.18.0-xxxなど)」に対して非常に敏感に反応するからです。
本記事では、実際に発生した「OSのバージョン表記は変わっていないのに、LifeKeeperが起動しなくなった」という事例を通して、以下のポイントを解説します。
- カーネル更新がLifeKeeperに与える影響のメカニズム
- サポートマトリクスの「注釈」に隠された重要な条件
- トラブルを未然に防ぐための正しい確認プロセス
「手順通りやったはずなのに動かない…」と頭を抱える前に、ぜひ押さえておきたい勘所を整理しました。
その他の連載企画は以下のリンクからどうぞ!
【リソース起動・フェイルオーバー失敗の深層 #1】EC2リソースが起動しない!クラウド連携の盲点とデバッグ術 – TechHarmony
【リソース起動・フェイルオーバー失敗の深層 #2】ファイルシステムの思わぬ落とし穴:エラーコードから原因を読み解く – TechHarmony
【リソース起動・フェイルオーバー失敗の深層 #3】設定ミス・通信障害・バージョン違いの深層と再発防止策 – TechHarmony
実録!「困った」事例:事前確認は「OK」だったのに…
今回は、単なるエラー事例ではありません。運用担当者が「事前にベンダーへ確認し、お墨付きをもらっていた」にも関わらず発生してしまった、少し根が深いトラブルの事例です。
事象の概要:慎重に進めたはずのアップデート
ある運用中のシステム(RHEL 8.1 / LifeKeeper v9.5.1)にて、セキュリティ要件を満たすため、OSの「カーネルとファームウェアのみ」をRHEL 8.3相当へアップデートすることになりました。
運用担当者は非常に慎重でした。作業前にベンダー(サポート)に対し、「RHEL 8.3へアップデートするが、LifeKeeperの動作に問題はないか?」と問い合わせを行い、「LifeKeeperの更新インストールを行えば問題ない」という回答を得ていました。
「これで準備は万端だ」
そう確信して臨んだ作業当日。カーネル更新とLifeKeeperの更新インストールを完了させ、いざサービスを起動しようとすると…
「DataReplication(データレプリケーション)リソースの開始に失敗しました」
発生時の状況:深まる謎と焦り
ログを確認すると、データ同期に必要なミラーリングデバイスの作成部分でエラーが出ていました。 すぐにサポートへ問い合わせましたが、事態はすぐには収束しませんでした。
- サポート側: 「RHEL 8.3へのアップデートであれば、通常はこの手順で動くはずです」
- 現場: 「手順通りやりました。でも動きません。OSのリリースファイル(
/etc/redhat-release)は 8.1 のままですが、これが悪いのでしょうか?」 - サポート側: 「8.1…? 8.3に上げたのではなかったのですか?」
実はここに、「ボタンの掛け違い」 が潜んでいました。
原因究明のプロセス:言葉の定義の違い
何度かのやり取りの末、ようやく互いの認識のズレと、技術的な根本原因が判明しました。
- 「OSアップデート」の解釈違い
- 運用担当者は、「カーネルとファームウェアを8.3相当にする」ことを指して「RHEL 8.3へのアップデート」と伝えていました。
- サポート担当者は、それを「OS全体(マイナーバージョン)をRHEL 8.3へ移行する」と受け取り、標準的な8.3用の手順を案内していました。
- インストーラーの誤認
- 現場のOS環境は「見た目は8.1(リリースファイル等の表記)、中身は8.3(カーネル)」という特殊な状態でした。
- LifeKeeperのインストーラーは「見た目(8.1)」を信じて、RHEL 8.1用の標準モジュールをインストールしていました。しかし、実際に動いているカーネルは8.3相当だったため、ドライバが噛み合わず起動に失敗していたのです。
判明した根本原因
最終的な技術的原因は、LifeKeeperの サポートマトリクスの「注釈(Notes)」 にありました。
RHEL 8.3相当のカーネルを使用する場合、標準のインストーラーに含まれるモジュールではなく、「特定の修正パッチ(HADRモジュール)」を手動で適用する必要があったのです。
「OSは8.1だから」という安心感と、「事前に8.3で確認したから」という確信の狭間で、「現在のカーネルバージョンに合致したパッチが必要」 という極めてピンポイントな要件が見落とされてしまった事例でした。
「再発させない!」ための対応策と学び
今回の事例は、最終的にサポートから提供された「当該カーネル専用の修正パッチ(HADRモジュール)」を適用し、不要な標準パッケージを削除することで解決に至りました。 しかし、ここで得られた学びは「パッチを当てれば直る」という技術的なことだけではありません。
今後、同様の「迷宮入り」を防ぐために、私たちが実践すべき防止策を整理しました。
1. サポートへの問い合わせは「カーネルバージョン」で語る
今回の最大の教訓は、「OSのバージョン名(RHEL 8.3など)」だけで会話をしないということです。 特にDataKeeperのようなカーネル依存の製品に関する問い合わせでは、以下の情報をセットで伝えることが、正確な回答を引き出す鍵となります。
- 現在のOS/カーネル:
uname -rの結果(例: 4.18.0-147…) - 更新予定のカーネル: アップデート後に適用される具体的なバージョン数値(例: 4.18.0-240…)
- アップデートの手法: 「OS全体のマイナーバージョンアップ」なのか、「カーネルのみの個別更新」なのか
「RHEL 8.3相当にします」と伝えるよりも、「カーネルを 4.18.0-240 に上げます」と伝えていれば、サポート担当者も「そのカーネルバージョンなら、この注釈のパッチが必要です」と即座に案内できたかもしれません。
2. サポートマトリクスは「注釈」こそが本体
対応OS一覧表(サポートマトリクス)を見る際、どうしても「RHEL 8.3 … ○」という記号に目が行きがちです。しかし、トラブルの種は表の外側に書かれた小さな文字、「注釈(Notes)」 や 「既知の問題(Known Issues)」 に潜んでいます。
- 「特定の手順に従う必要があります」
- 「追加のモジュールが必要です」
こうした記述を見つけたら、それは「ただの推奨事項」ではなく「必須要件」であると捉えてください。
3. 【保存版】アップデート前の確認チェックリスト
最後に、作業前の確認漏れを防ぐためのチェックリストをまとめました。
■カーネルアップデート前の確認チェックリスト
[ ] アップデート後の「カーネルバージョン」を特定しましたか?
dnf check-update kernel 等で、適用されるバージョン数値(例: 4.18.0-xxx)を確認しましょう。
[ ] サポートマトリクスの「注釈」まで確認しましたか?
対象のOSバージョンに「※」や「Note」が付いていないか、欄外までスクロールして確認しましょう。
[ ] 「OSの更新方法」をベンダー/サポートへ正確に伝えましたか?
「カーネルのみ更新」「OSバージョンは維持」といった特殊な要件がある場合は、必ず背景として伝えましょう。
[ ] 作業前のバックアップ(lkbackup)は取得しましたか?
万が一の切り戻し手順も確立しておきましょう。
まとめ:DataKeeperは「カーネルの一部」と心得る
今回の事例を通じて、私たちが得た最大の教訓は、「OSのアップデート」という言葉の裏にあるリスクの大きさでした。
セキュリティ対策や機能要件でOSの更新は避けられませんが、DataKeeperを利用している環境において、それは単なるアプリの再起動では済みません。「OSの見た目(リリースバージョン)」が変わらなくても、「中身(カーネル)」が変われば、DataKeeperにとっては全く別の環境になり得るのです。
サポートマトリクスは、ただの「対応表」ではありません。安全に目的地へたどり着くための「地図」であり、そこに書かれた小さな「注釈」は、崖崩れや落とし穴を避けるための重要な道標です。
そして何より、「正確な情報をサポートへ伝えること」。これが、トラブルの迷宮から最短で脱出するための命綱となります。「カーネルバージョン」という共通言語を使って、ベンダーと認識を合わせることから始めてみてください。
日々の運用の中で、ふと「これ、バージョン上げても大丈夫かな?」と思った時、この記事のチェックリストが皆様の助けになれば幸いです。
次回予告
さて、今回の「OS周りのアップデート」に続き、次回はLifeKeeperそのもののバージョンアップに焦点を当てます。
「LifeKeeperを最新版に上げたいけれど、手順書通りにやってエラーが出たらどうしよう…」 「かなり古いバージョンからのジャンプアップ、本当に大丈夫?」
そんな不安をお持ちの方、必見です。次回は、「LifeKeeperバージョンアップ失敗事例と成功へのロードマップ」と題し、実際のバージョンアップ作業で発生したトラブル事例や、意外なハマりポイント、そして安全確実に移行するためのステップを解説します。
- 更新インストール時に出る「謎のエラーメッセージ」の正体とは?
- バージョンをまたぐ更新で注意すべき「廃止機能」や「仕様変更」
転ばぬ先の杖として役立つ情報をお届けしますので、ぜひお楽しみに!

