LifeKeeperの『困った』を『できた!』に変える!サポート事例から学ぶトラブルシューティング&再発防止策
こんにちは、SCSKの前田です。
いつも TechHarmony をご覧いただきありがとうございます。
システムのリプレースやハードウェア更新のタイミングで訪れる、「ミドルウェアのバージョンアップ」。 「サポート切れ(EOS)対応」や「魅力的な新機能の追加」など、OSのパッチ適用とはまた違った、期待と緊張が入り混じる一大イベントではないでしょうか。
しかし、HAクラスターソフトウェアであるLifeKeeperにおいて、この「バージョンアップ」は単なるファイルの置き換えではありません。「インストーラーを実行して、バージョン番号が上がれば完了!」……そう思い込んで作業を進めた結果、再起動後に設定ファイルが初期値に戻っていたり、長年動いていたスクリプトが突然エラーを吐き始めたりといった、予期せぬトラブルに直面することがあります。
本連載企画「LifeKeeper の『困った』を『できた!』に変える!サポート事例から学ぶトラブルシューティング&再発防止策」では、サポートセンターに蓄積された「生のトラブル事例」を元に、安定運用のための実践的な知恵を共有していきます。
はじめに:成功へのロードマップを描く
連載第2回となる今回は、LifeKeeper本体やDataKeeperのバージョンアップに焦点を当てます。
バージョンアップ作業において、最も怖いのは「見えない変化」です。 インストーラーは便利ですが、それが裏側でどの設定を引き継ぎ、どの設定をリセットするのか、また新しいバージョンが古い設定をどう解釈するのかは、リリースノートの細部を読み込まない限り見えてきません。
今回は、実際にサポートへ寄せられた「バージョンアップ失敗事例」を以下の3つの「落とし穴(Trap)」に分類しました。
- 設定と環境の「サイレント変化」
- 過去の「まあいいか」が牙をむく
- 近道は「急がば回れ」
これらの事例から「なぜ失敗したのか」を学び、確実に成功させるためのチェックポイント(ロードマップ)を解説します。
その他の連載企画は以下のリンクからどうぞ!
【リソース起動・フェイルオーバー失敗の深層 #1】EC2リソースが起動しない!クラウド連携の盲点とデバッグ術 – TechHarmony
【リソース起動・フェイルオーバー失敗の深層 #2】ファイルシステムの思わぬ落とし穴:エラーコードから原因を読み解く – TechHarmony
【リソース起動・フェイルオーバー失敗の深層 #3】設定ミス・通信障害・バージョン違いの深層と再発防止策 – TechHarmony
【OS・LKバージョンアップで泣かないために #1】OSバージョンは変えていないのに!?カーネル更新の「落とし穴」と互換性の真実 – TechHarmony
【実録】LifeKeeperバージョンアップの「困った!」事例ファイル
ここからは、実際のサポート問い合わせをベースにしたケーススタディです。 「自分の環境でも起こりうるかもしれない」という視点でご覧ください。
Trap 1:設定と環境の「サイレント変化」
バージョンアップによって、今まで使っていた設定や環境が「静かに」変わってしまうケースです。
■ケースA:アップデートしたら設定が消えた!?(Linux版) 「v9.5.2からv9.9.1へアップデートしました。エラーなく完了したのですが、再起動後になぜかプロキシ設定などが効かなくなっています…」
- 発生状況: アップデート作業自体は成功したものの、LifeKeeperの動作設定ファイル(
/etc/default/LifeKeeper)に記述していたカスタム設定が消失していました。 - 原因: LifeKeeperの仕様により、更新インストール時に一部の設定ファイルがデフォルト値に戻る(上書きされる)挙動となっていました。
- 教訓: 「設定はすべて自動的に引き継がれるはず」という思い込みは危険です。特にメジャーバージョンをまたぐ更新では、バックアップと復元手順が必須です。
■ケースB:スクリプトが動かない!Perlの罠(Windows版) 「v8.9からv8.10.2へ上げようとしています。パラメータ変更は不要と聞きましたが、本当にそのまま上げて大丈夫でしょうか?」
- リスク: 調査の結果、LifeKeeperに同梱されているPerlのバージョンが、v8.10.1以降で「5.8系」から「5.32系」へと一気にアップグレードされていることが判明しました。
- 教訓: GenericリソースなどでPerlスクリプトを使用している場合、言語仕様の変更によりスクリプトが動作しなくなる可能性があります。アプリケーションだけでなく、ミドルウェアが依存する「言語環境」の変化も重要なチェックポイントです。
Trap 2:過去の「まあいいか」が牙をむく
古いバージョンでは許容されていた(あるいは無視されていた)設定の不備が、新しいバージョンの「厳格なチェック」によってエラーとして顕在化するケースです。
■ケースC:亡霊IPがアラートを引き起こす 「OSとLifeKeeperを更新した後、ログに failed quickCheck due to ALRM signal というエラーが多発するようになりました。以前は出ていなかったのですが…」
- 原因: IPリソースの監視リスト(
pinglist)に、既に撤去済みで疎通できない古いIPアドレスが残っていました。 - なぜ今?: バージョンアップに伴いチェック処理やリトライの挙動が変化(厳格化)し、古いIPへの応答待ちが積み重なった結果、タイムアウト(ALRM signal)が発生していました。
- 教訓: 「今は使っていないけど残っている設定」は、バージョンアップ時の最大の敵です。更新作業はゴミ掃除の絶好の機会と捉えましょう。
■ケースD:ディスクに名前がない!?(UUID問題) 「バージョンアップ後、DataKeeperリソースで『一意の識別子がない』という警告が出たり、パーティション情報が正しく取得できなくなりました」
- 原因: LifeKeeper/DataKeeperの新しいバージョンでは、ディスクを一意に特定するために「UUID」の使用が必須化(または厳格化)されました。古い環境で「MBR形式」のパーティションを使っていたため、UUIDを持たず、新しいバージョンの要件を満たせなくなっていました。
- 教訓: ソフトウェアの進化に合わせて、インフラ側(パーティションテーブル等)もGPT形式へのモダン化が必要になることがあります。
Trap 3:近道は「急がば回れ」
手順を省略したり、無理なアップデートパスを通ろうとして失敗するケースです。
■ケースE:飛ばしすぎたバージョンアップ 「v9.6.xからv9.8.1へ一気にアップデートしようとしたら失敗しました。2世代前からの更新はサポートされているはずですが…」
- 原因: 基本的には直接アップデートが可能ですが、この特定のバージョン(v9.8.1)においては内部パッケージの大幅な構成変更があったため、例外的にv9.7やv9.8.0を経由する「ステップアップグレード」が必要でした。
- 教訓: 「いつものルール(N-2までOKなど)が今回も適用される」とは限りません。リリースノートには必ず「アップグレードの注意点」や「例外的なパス」が記載されていますので、慣れている作業でも必ず目を通しましょう。
■ケースF:GUIの表示がおかしい 「DataKeeper更新後、GUI上でジョブ情報が表示されなくなりました」
- 解決策: 調査の結果、内部情報の不整合が起きていました。このケースでは、無理に修正するよりも「再インストールしてジョブを再作成」した方が、結果として早く、確実に解消しました。
- 教訓: バージョンが大きく離れている場合や挙動がおかしい場合は、上書きアップデートに固執せず、設定バックアップをとった上での「作り直し(再作成)」が最短ルートになることがあります。
「再発させない!」成功へのチェックリスト
上記の失敗事例から導き出した、バージョンアップ作業前に確認すべき「転ばぬ先の杖」チェックリストです。計画段階でぜひご活用ください。
■LifeKeeper/DataKeeper バージョンアップ事前確認シート
[ ] 【パスの確認】
現在のバージョンからターゲットバージョンへ「直接」アップデート可能ですか?(中継バージョンが必要ありませんか?)
[ ] 【設定ファイルのバックアップ】
更新時に初期化されるファイル(/etc/default/LifeKeeper 等)を特定していますか?
それらの手動バックアップを取得し、更新後に復元する手順を組み込みましたか?
[ ] 【言語・環境の差異】
PerlやPythonなど、LifeKeeperが利用するランタイムのバージョンに変更はありませんか?(自作スクリプトへの影響確認)
ディスクのパーティション形式は新しいバージョンの要件(UUID必須/GPT推奨など)を満たしていますか?
[ ] 【不要設定の削除(ゴミ掃除)】
IPリソースの pinglist に、現在疎通できない「亡霊IP」が残っていませんか?
[ ] 【OSとの整合性】
OS自体のカーネルアップデートを行う場合、LifeKeeperの再インストールやモジュール再コンパイルの手順を確認しましたか?
[ ] 【リカバリプラン】
更新インストールが不整合を起こした場合に備え、一度アンインストールして「新規インストール+設定復元(または再作成)」に切り替える判断基準を持っていますか?
ベストプラクティス:成功への近道
トラブルを防ぐために、明日からできる「ベストプラクティス」を3つ提案します。
「リリースノート」は宝の地図
リリースノートを「バグ修正のリスト」だと思っていませんか? 本当に見るべきは「制限事項 (Known Issues)」と「変更点 (Migration/Changes)」です。ここには「設定ファイルが初期化される」「UUIDが必須になる」といった重要情報が必ず書かれています。
ステージング環境でのリハーサルは必須
机上の確認だけでは、「pinglistのタイムアウト」や「Perlの互換性」といった環境依存のトラブルは見抜けません。本番環境のクローン(または同等構成)を用意し、実際にバージョンアップ手順を流すリハーサルを行ってください。
大幅な更新は「再作成」も視野に
数年前のバージョンから一気に最新版にするような場合、継ぎ接ぎのアップデートを繰り返すより、「設定情報を控えて、クリーンインストール後に再設定する」方が、潜在的なゴミが残らず、結果的に安定稼働につながることが多々あります。「上書き」にこだわらない柔軟性も重要です。
まとめ
バージョンアップ時のトラブルは、多くの場合「準備不足」や「思い込み」の隙間に入り込むものです。 しかし、今回ご紹介した事例のように、事前に「何が変わるのか」「何が消えるのか」「今の設定にゴミはないか」を確認しておけば、そのほとんどは防げます。
「LifeKeeperの『困った』を『できた!』に変える」
今回のロードマップを参考に、ぜひ安心・安全なバージョンアップ計画を立ててください。
次回予告
次回からは新章に突入! テーマは「クラウド環境特有の落とし穴:AWS/Azure連携でハマるポイント」です。
クラウドならではの「オンプレミスと同じ感覚で設定したら動かない!?」というトラブル。 その第一弾として、AWS環境でのLifeKeeper安定稼働術にフォーカスします。
「Route53のDNSが切り替わらない!」「便利なはずの『Auto Recovery』がLifeKeeperと喧嘩する!?」といったAWS特有の事例と、EC2・S3連携の注意点を徹底解説します。お楽しみに!

