2026年サイバーセキュリティ脅威報告書から読み解く重要トレンドと我々が取るべきセキュリティ施策について

2026年に発行された主要なサイバーセキュリティ脅威報告書から、最新のサイバー攻撃の脅威情勢や攻撃者の戦術を読み解き、我々防御側が取るべきセキュリティ施策についての解説を行います。

マンディアント「Mandiant M-Trends 2026」

まずは Google の子会社である米国サイバーセキュリティ企業 マンディアント(Mandiant)の「Mandiant M-Trends 2026」(2026年4月7日発行)は、2025年に行った50万時間以上のインシデント調査に基づき、最新の脅威情勢と攻撃者の戦術を分析した年次レポートです。このレポートの概要と重要なポイントは以下の通りです。

攻撃スピードの加速と「ハンドオフ」の常態化

攻撃者間の分業体制が進み、初期侵入専門グループ IAP(Initial Access Partners)が獲得したアクセス権を別の攻撃グループ(ランサムウェア実行者など)へ受け渡す「ハンドオフ」が非常に高速化しています。

  • 驚異的なスピード: 初期侵入から二次グループへのアクセス提供までの時間は、2022年の8時間以上から、2025年にはわずか22秒(中央値)にまで短縮されました。
  • 重大な影響: これにより、従来は「優先度の低いアラート」と見なされていた初期の不審な動きが、数秒後には深刻な侵害へと発展するリスクが高まっています。

初期侵入経路の変化:脆弱性と音声フィッシング

  • 脆弱性悪用が最多: ソフトウェアの脆弱性悪用(Exploit)が32%を占め、6年連続で最多の侵入経路となりました。
  • 音声フィッシング(Vishing)の急増: インタラクティブな音声によるソーシャルエンジニアリングが11%に急増し、第2位に浮上しました。
  • 電子メールの減少: 従来の主流だった電子メールフィッシングは6%にまで低下しています。

ランサムウェアの進化:「復旧の拒否」

ランサムウェア攻撃者の戦略が、単なるデータの暗号化や窃取から、組織の「復旧能力」そのものを破壊することへとシフトしています。

  • ターゲットの絞り込み: バックアップインフラ、アイデンティティ(ID)サービス、仮想化管理プレーンを系統的に攻撃し、自力での復旧を不可能にすることで、身代金支払いの圧力を最大化させます。
  • 滞留時間(Dwell Time)の増加: 全体の潜伏期間の中央値は14日(前年11日)に増加しましたが、これは長期的なスパイ活動や北朝鮮のIT労働者による活動が影響しています。

AIの武器化と防衛への活用

攻撃者は生産性を向上させるためにAIを戦略的に取り入れています。

  • 攻撃側: AIを使用して超パーソナライズされた音声フィッシングを行ったり、実行中にLLMをクエリして検知を回避するマルウェア(PROMPTFLUXなど)が登場しています。
  • 防衛側: AI駆動の攻撃には人間だけの対応では間に合わないため、防御側もAIを活用した自動化や、レッドチームによるAI駆動型攻撃のシミュレーションテストが推奨されています。

狙われるインフラ:仮想化とエッジデバイス

EDR(エンドポイント検知と対応)ツールが導入しにくい「死角」を突く攻撃が増加しています。

  • 仮想化環境への攻撃: ハイパーバイザー自体を侵害し、ゲストOSを通さずにデータを窃取したり、管理機能を悪用して一括で暗号化を行う手法が目立ちます。
  • エッジデバイスの悪用: VPNやルーターなどのネットワーク機器の脆弱性を突き、長期的な足がかりとして利用するケースが増えています。

第三者SaaS侵害の波及

SaaSプラットフォーム間の連携を悪用した攻撃が深刻化しています。

  • 非人間アイデンティティ(NHI)の悪用: OAuthトークンやAPIキーを盗み出し、多要素認証(MFA)をバイパスして、一つのSaaSの侵害からクラウド環境全体へ横方向に移動(ラテラルムーブメント)する連鎖的な被害が発生しています。

マンディアントの「Mandiant M-Trends 2026」では、攻撃者が「マシンのスピード」で動き、組織の復旧基盤を執拗に狙う現代において、「Active Resilience(能動的なレジリエンス)」という考え方を提唱しています。これは、ID管理の徹底、インフラの分離、そして攻撃を受けてもビジネスを継続できる構造的・建築的な規律を確立することの重要性を強調するものです。

 

ベライゾン「2026 Data Breach Investigations Report: DBIR」

次にベライゾン(Verizon)の「2026年データ侵害調査レポート(2026 Data Breach Investigations Report: DBIR)」(2026年5月19日発行)は、2024年11月1日から2025年10月31日までの期間に発生した、世界145カ国の31,000件以上のセキュリティインシデントと、そのうち確認された22,000件以上のデータ侵害を分析した第19版の年次報告書です。このレポートの概要と重要なポイントは以下の通りです。

全体のテーマ

今回のレポートの大きなテーマは「変化に直面する中での強固な基盤の維持」です。AIによる攻撃の加速やゼロデイ脆弱性の増加といった急激な変化の中でも、資産の可視化、徹底したパッチ管理、対応計画の策定といった「サイバーセキュリティの基本」が、今日および将来の脅威に対処するために最も重要であると説いています。

2026年版の主な傾向と知見

  • 脆弱性の悪用の急増: 脆弱性の悪用(Exploitation of vulnerabilities)が、侵害の初期侵入経路として最も一般的(31%)になり、前回までの首位であった資格情報の乱用(13%)を大きく上回りました。
  • 生成AI(GenAI)の影響: 攻撃者は標的選定、初期侵入、マルウェア開発などの各段階で生成AIを活用し始めています。ただし、現時点でのAIの主な影響は「既存の手法の効率化と自動化」であり、全く新しい攻撃手法を生み出しているケースはまだ限定的(2.5%未満)であると分析されています。
  • サードパーティのリスク拡大: サードパーティが関与する侵害は前年比で60%増加し、全侵害の48%に達しました。
  • ランサムウェアの現状: 全侵害の48%にランサムウェアが関与しており、依然として主要な脅威です。一方で、身代金を支払わない組織の割合が69%へと増加し、支払額の中央値も低下傾向にあります。
  • 人間的要素: 侵害の62%に人間的要素(ミスやソーシャルエンジニアリングへのひっかかり)が関与しています。

主要なインシデント分類パターン

レポートでは、インシデントを以下の7つのパターンに分類して詳細に分析しています。

  • システム侵入(System Intrusion): 複雑な多段階攻撃。侵害の60%を占める最大のパターンです。
  • ソーシャルエンジニアリング(Social Engineering): フィッシングなど。メールだけでなくSMSや電話による攻撃も増加しています。
  • 基本的なWebアプリケーション攻撃: 資格情報の窃取や脆弱性悪用を伴いますが、比較的単純な構成の攻撃です。
  • その他のエラー(Miscellaneous Errors): 設定ミスや誤送信。特に医療業界で顕著なパターンです。
  • 特権の乱用(Privilege Misuse): 内部関係者による意図的な不正行為。
  • 資産の紛失・盗難(Lost and Stolen Assets): 端末の紛失など。
  • サービス拒否(DoS/DDoS): データの窃取ではなく、可用性の阻害を目的とした攻撃。

業界別・地域別の特徴

  • 業界別の傾向: 金融はランサムウェアを伴うシステム侵入、医療は人的ミス、公共機関は国家背景の攻撃者によるスパイ活動など、業界ごとに直面する脅威が異なります。
  • 地域別の傾向(APAC/日本含む): アジア太平洋(APAC)地域では国家背景を持つ攻撃者によるスパイ活動(Espionage)が36%と他地域より高く、機密情報(Secrets)を狙った侵害が目立ちます。

特別な深掘り分析

  • 特権昇格の経路: 攻撃者が低権限ユーザーからドメイン管理者へと権限を昇格させるプロセスを分析し、特権管理(Privilege Management)の制限が防御の鍵であることを示しています。
  • 北朝鮮IT労働者のリスク: 盗んだ個人情報を使い、リモートワークのIT職として企業に潜り込む北朝鮮の労働者が、外貨獲得やさらなるアクセスの足がかりとなっているリスクに警鐘を鳴らしています。

ベライゾンの「2026年データ侵害調査レポート」を要約すると、「AIによる攻撃の高速化や脆弱性の悪用の一般化が進む現代において、企業が優先すべき防御策をデータに基づいて明らかにした、実務的なガイドブック」と言えます。

 

IBM「Cost of a Data Breach Report 2026」

IBMがスポンサーとなって、ポネモン・インスティテュート(Ponemon Institute)が実施した「2026年データ漏洩コスト報告書(Cost of a Data Breach Report 2026)」(2026年7月29日発行)は、データ侵害に関する年次調査レポートで第21回目となります。このレポートの概要と重要なポイントは以下の通りです。

侵害コストの過去最高記録

2026年のデータ侵害の世界平均コストは、前年比12%増の約8億円(499万ドル)に達し、過去最高を記録しました

  • 要因: コスト増加の主な要因は、「検出とエスカレーション」および「ビジネスの損失」(業務停止や顧客離れなど)であり、これらが全体のコストの63%を占めています。
  • 地域別: 米国は世界平均の2倍以上となる約18億円(1,150万ドル)で、引き続き最も高いコストを記録しています。
  • 業界別: ヘルスケア業界が13年連続で最もコストが高く10億円(664万ドル)、次いで金融 9億円(629万ドル)となっています。

「AIのティッピングポイント(転換点)」:武器化するAI

レポートは、攻撃者がAIを武器化することで「人間のスピード」から「マシンのスピード」へと攻撃を加速させていると警鐘を鳴らしています。

  • AI主導の攻撃の急増: 悪意のある攻撃の4分の1以上(25%)がAI主導であり、前年比で56%増加しました。
  • 経済的影響: AI主導の攻撃は、侵害1件あたり平均1.5億円(100万ドル)の追加コストを発生させています。
  • 攻撃手法: AIによるディープフェイクのなりすまし(45%)や、AI生成マルウェア(19%)が高い割合を占めています。

防御側におけるAIと自動化の効果

一方で、AIと自動化を防御に活用している組織は、大きなコスト削減に成功しています。

  • コスト削減額: セキュリティAIと自動化を広範囲に活用している組織は、活用していない組織と比較して平均3億円(193万ドル)のコストを節約しています。
  • 対応時間の短縮: AIの活用により、侵害の特定と封じ込めに要する時間が平均65日間短縮されました。

新たな脅威:AIモデル自体への攻撃

組織がAIを導入するにつれ、AIモデルやアプリケーション自体を標的とした攻撃も増加しています(前年比61%増)。

    • 最も高額な攻撃: モデル反転攻撃(平均9.6億円(607万ドル))やプロンプト・インジェクション(平均9.3億円(589万ドル))が、最も大きな経済的損失をもたらしています。
  • 管理不足: AI関連の侵害を経験した組織の92%が、適切なAIアクセス制御を欠いていました

その他の重要なトピック

  • ランサムウェアの進化: 技術的な混乱だけでなく、ブランドの評判を武器にした脅迫(公開処刑やメディアへのリークなど)が41%のケースで行われています。
  • 非人間アイデンティティ (NHI): AIワークフローで使用されるマシンやデバイスの資格情報の保護が遅れており、これを保護している組織は半分以下(46%)にとどまっています。
  • ポスト量子暗号: 量子コンピュータによる暗号解読のリスクに対し、プロジェクトを進行させている組織はわずか26%です。

IBMの「2026年データ漏洩コスト報告書」は、攻撃者がAIによって脆弱性の発見から悪用までの時間を劇的に短縮している現代において、「侵害を前提(Assume Breach)」とし、AIと自動化を駆使してマシン・スピードで対抗する防御戦略の必要性を強調しています。

 

その他 サイバーセキュリティ脅威報告書

これまで、ご紹介した3つの報告書以外にも、2026年になって各調査会社やセキュリティベンダーが、様々なレポートを発行しています。

レポート
発行日
主な概要
CrowdStrike 2026 Global Threat Report 2026年2月24日 AI対応型の攻撃が89%増加、eCrimeの平均ブレークアウト時間が29分に短縮、AIツールとAI開発プラットフォームの悪用
IBM X-Force Threat Intelligence Index 2026 2026年2月25日 公開型アプリケーション悪用の44%増加、ランサムウェアグループの49%増加、サプライチェーン侵害の4倍増加
Gartner Cybersecurity Trends for 2026 2026年2月5日 サイバーセキュリティ支出が2026年に2,400億ドルに成長(12.5%増)、CISOが対応すべき重要なトレンドと予測
Zscaler ThreatLabz 2026 AI Security Report 2026年1月27日 エンタープライズAI/ML活動が83%増加、1兆近くのAI/MLトランザクションを分析
Check Point Cyber Security Report 2026 2026年1月28日 組織が週平均1,968回のサイバー攻撃を受撃(2023年比70%増加)、AI駆動型の自動攻撃が89%の組織で検出
Palo Alto Networks Unit 42 Global Incident Response Report 2026 2026年2月17日 50件以上の重大サイバーインシデント対応、AIが侵害と流出の間の時間を短縮
Sophos Active Adversary Report 2026 2026年2月24日 67%のインシデントがアイデンティティ関連の攻撃、ランサムウェアは就業時間外の活動が88%
Google Cloud Cybersecurity Forecast 2026  2025年11月
(2026年向け予測)
AIが攻撃者の日常的なツールになること、国家主体による脅威の増加
Rapid7 2026 Global Threat Landscape Report: Decoding the Accelerated Cyber Attack Cycle 2026年3月18日 高・重大度の脆弱性悪用が105%増加、脆弱性公開から実装までの時間が5日に短縮、ID盗用が43.9%のインシデントの原因
Fortinet 2026 Global Threat Landscape Report 2026年4月30日 AI有効型のサイバー犯罪の急増、ランサムウェア被害者の増加
Proofpoint 2026 AI and Human Risk Landscape Report 2026年4月28日 AIが1,400人以上のセキュリティ専門家の協働セキュリティをどう変えているか、AIとランサムウェアの関係性
Darktrace Annual Threat Report 2026 2026年
(発行日不明)
10,000以上のネットワークからのデータ、アイデンティティが標的化、脆弱性が20%増加
Kaspersky Anatomy of a Cyber World Global Report 2026
2026年
(発行日不明)
管理検出対応(MDR)と事前対応(IR)サービスから得た脅威分析、実世界の攻撃ケース
OpenText Cybersecurity 2026 Threat Report 2026年
(発行日不明)
「攻撃者はログイン、侵入ではない」が主テーマ、ランサムウェアとフィッシングの拡大
Dataminr 2026 Cyber Threat Landscape Report 2026年
(発行日不明)
4,500の脅威アクターと73,000の脆弱性を追跡、アイデンティティ障害とパッチバイパスの流行
CyberProof 2026 Global Threat Intelligence Report 2026年
(発行日不明)
2025年のサイバー活動の包括的分析、脅威と傾向のマッピング
Trend Micro TrendAI 2026 Cyber Risk Report 2026年
(発行日不明)
2025年のテレメトリーに基づく拡張分析、XDR機能の統合

 

攻撃者の脅威トレンドと戦術についてのまとめ

2026年のこれらサイバーセキュリティ脅威レポートから確認できた脅威の重要トレンドを10個に整理しました。

 

1. 初期侵入経路としての「脆弱性悪用(Exploit)」の急増

長年、初期侵入の最大の要因であった資格情報の乱用を抜き、ソフトウェア脆弱性の悪用がトップの侵入経路へと浮上しました。
  • 『DBIR 2026』において、初期侵入経路に占める脆弱性悪用の割合は31%(前年20%から55%増)へ急増し、盗まれた資格情報の不正利用(13%)を大きく引き離す。『M-Trends 2026』でも、脆弱性悪用は6年連続で最も頻度の高い初期感染経路(32%)となっています

2. 攻撃の「マシンスピード化」(ハンドオフ時間の極小化)

攻撃者の高度な組織化・分業化により、防御側が対応する猶予(時間)が劇的に奪われています。
  • 初期侵入のみを専門とする「初期アクセス・パートナー(IAP)」が侵入に成功してから、ランサムウェア実行などの破壊活動を行う「二次グループ」へアクセス権を引き渡すまでの時間(中央値)が、2022年の8時間以上から、2025年にはわずか22秒へとミリ秒単位・秒単位のスピードに加速しています

3. データ侵害コストの過去最高記録(平均8億円)

データ侵害が発生した際の企業の経済的損失が膨らみ続けています。
  • データ侵害のグローバル平均コストは前年比12%増の8億円に達し、過去最高を記録しました。特に「検出とエスカレーション」および業務停止や顧客離れなどの「失われたビジネス(Lost Business)」の2つのカテゴリーがコスト増加を牽引し、全体の63%(5億円)を占めています

4. 攻撃者による「AIの武器化」とAI駆動型攻撃の台頭

攻撃者がサイバー攻撃ライフサイクルの各段階(ターゲティング、侵入、高度なマルウェアの開発)に生成AIを積極的に導入しています。
  • データ侵害を経験した組織の4分の1以上(25%)が「AI駆動型の攻撃」を報告しており(前年比56%増)、AI駆動型攻撃は侵害1件あたり平均1.5億円の追加コストをもたらしています。主な手法として、AIを用いたディープフェイクなりすまし(45%)や、AI生成マルウェア(19%)が挙がっています。

5. ランサムウェア脅迫戦術の進化:「ブランド評判の武器化」と「復旧能力の破壊(復旧拒否)」

攻撃者は、単にデータを暗号化するだけの技術的脅迫から、より冷酷で多層的な人質戦術へと移行しています。
  • ランサムウェア攻撃を受けた組織の41%において、公開処刑やメディアへの情報リークといった「ブランドの評判を傷つける脅迫」が行われました。さらに攻撃者は、組織が自力でバックアップから立ち直るのを防ぐため、バックアップインフラ、アイデンティティサービス、仮想化管理プラーン(ハイパーバイザーなど)といった「信頼されたサービスインフラ(TSI)」を意図的に狙って破壊する「復旧の拒否(recovery denial)」を徹底しています。

6. サードパーティおよびSaaS連携を突いた連鎖的サプライチェーン攻撃

自社のセキュリティが堅牢であっても、業務を委託する外部環境から侵入されるリスクが激増しています。
  • サードパーティが関与するデータ侵害は前年比60%増加し、全侵害の48%に達しました。特にAPIキー、OAuthトークン、セッションクッキーなどの「非人間アイデンティティ(NHI)」が狙われており、多要素認証(MFA)をバイパスして、ある1つのSaaSの侵害からクラウド全体へ連鎖的に被害が広がる事象が常態化しています

7. 従業員の「シャドーAI(未承認AIの業務利用)」に伴う漏洩リスクの倍増

企業が認可していない生成AIサービスを従業員が自己判断で利用し、機密データをアップロードしてしまうリスクが極めて深刻になっています。
  • 企業のDLP(データ損失防止)ポリシー違反において、シャドーAIへのデータ送信が急増しており、送信データの中身はソースコード(28%)や画像(16%)、さらには研究・技術文書(3.2%)にまで及んでいます。シャドーAIが関与したセキュリティインシデントは43%(前年20%から倍増以上)に達し、その侵害コストは平均8.5億円にのぼります

8. 音声フィッシング(Vishing)の台頭と高度なソーシャルエンジニアリング

従来の電子メールを用いたフィッシングの成功率が下がる(6%へ低下)一方で、ライブの人間が電話やメッセージで標的をリアルタイムに誘導する「音声フィッシング(Vishing)」が急速に増えています。
  • M-Trendsの調査において、音声フィッシングが初期感染経路の第2位(11%)に浮上しました。攻撃者はヘルプデスクのスタッフを装い、パスワードのリセットやMFA設定の変更を促すことで、高度なセキュリティ管理の壁を突破しています

9. 「AIモデルやAIアプリ自体」を標的とした新たな脆弱性・攻撃手法の出現

組織がAIをビジネスワークフローに組み込むにつれ、AIシステムそのものの欠陥を狙う攻撃が発生しています。
  • AI関連の侵害では、AIシステムに入力データを送信してモデルの学習データや機密仕様を逆算する「モデル反転攻撃(Model Inversion)」が平均9.6億円、意図しない命令をAIに実行させる「プロンプト・インジェクション(Prompt Injection)」が平均9.3億円と極めて高額な損失を出しています

10. 防衛側における「セキュリティAIと自動化」の圧倒的なコスト削減効果

攻撃の「マシンスピード化」に対抗するため、防御側もAIと自動化を導入した組織とそうでない組織で、明暗が大きく分かれています。
  • セキュリティAIと自動化を「広範囲(Extensive)」に活用している組織は、活用していない組織と比較して平均3.0億円の侵害コストを削減できています。また、AI未活用の組織が侵害の特定・封じ込めに平均280日を要するのに対し、広範囲に活用している組織は平均215日と、ライフサイクルを65日間短縮することに成功しています。

 

我々(防御側)が取るべき具体的なセキュリティ施策について

サイバーセキュリティ脅威レポートから整理した重要トレンドから、我々が防御側として取るべきセキュリティ対策について説明します。

 

1. アイデンティティ(ID)防御と最小権限の徹底

アイデンティティは「新しい境界(ペリメーター)」であり、最優先で要塞化すべき領域です。
  • 多要素認証(MFA)の全面的な適用:
    • 電子メールや重要アプリケーションだけでなく、VPN、クラウド環境、およびハイパーバイザーへのログインを含むすべてのアクセスポイントにMFA(可能であればFIDO2などのフィッシング耐性MFA)をロールアウトしてください。
  • 非人間アイデンティティ(NHI)とシークレットの管理:
    • APIキー、OAuthトークン、セッションクッキーなどのNHIに対して原則的最小権限を適用し、長寿命の静的キーから動的なOIDC(OpenID Connect)連携への移行を進めます。
    • コードリポジトリ(GitHub等)内のハードコードされた資格情報のスキャンを徹底し、自動でのトークンローテーションと短寿命セッションを強制します。
  • 権限同意(Consent)の制限と特権管理(PAM):
    • 一般従業員が未検証のサードパーティ製SaaSアプリケーションにログイン権限を「同意」する機能を無効化します
    • JIT(Just-in-Time)アクセスやPIM(特権アイデンティティ管理)を導入し、管理者権限は「必要な時に、必要な時間だけ」一時的に付与される設計にします。

2. 攻撃の「マシンスピード」に対抗するAIと自動化の活用

攻撃者の自動化された高速な侵害ライフサイクルには、人間だけの判断スピードでは対抗できません。
  • セキュリティAI・自動化の「広範囲(Extensive)」な活用:
    • 防御プロセス(予防、検出、調査、対応)全体にセキュリティAIと自動化(SOAR等)を導入します。広範囲にAIを活用している組織は、未活用の組織と比較して平均3億円のデータ侵害コストを削減し、特定から封じ込めまでの時間を平均65日間短縮できています。
  • SOC(セキュリティ運用センター)での自律型AIエージェントの展開:
    • 脅威ハンティングや自動応答・封じ込めでの活用に加え、攻撃者に狙われやすい「アラートのトリアージ」「自動化されたペネトレーションテスト」「自動化された脆弱性スキャン・管理」の領域にAIエージェントを優先配備します。

3. 構造的な「封じ込め」と「復旧能力(レジリエンス)」の確保

攻撃者はバックアップや管理インフラ(信頼サービスインフラ:TSI)を組織的に狙い、自力復旧を不可能にする戦術(復旧拒否)をとります。
  • ゼロトラストに基づくネットワークセグメンテーション(マイクロセグメンテーション):
    • 特に重要システムやTSI(バックアップシステムやハイパーバイザー管理プレーン)を一般の社内ネットワーク環境から隔離し、攻撃者の横移動(ラテラルムーブメント)を構造的に阻止します。
  • バックアップインフラの絶対的隔離と保護:
    • バックアップシステムを社内のActive Directory(AD)ドメインから完全に切り離します(Decouple)。ADが侵害された際にバックアップの管理者資格情報まで芋づる式に窃取されるのを防ぐため、独立したアイデンティティプロバイダー(IdP)を使用します。
    • イミュータブル(書き換え不能)ストレージ(WORM技術)や、ネットワークから遮断されたエアギャップコピーを導入し、バックアップデータの暗号化や一括削除(ワイプ)を防ぎます。
  • ハイパーバイザー(仮想化層)の要塞化:
    • 仮想化システムをADドメインに参加させず、ドメイン侵害が即座にハイパーバイザー全体へのコントロール(および仮想マシンの不正クローン)に繋がらないようにします。
    • 管理プレーンへのアクセスは、SSH等をデフォルト無効化し、専用かつ厳重に保護されたPAW(特権アクセス専用端末)からのみ許可します。

4. 実用的な脆弱性管理とアセット可視化

脆弱性の悪用が侵入原因のトップに躍り出た一方で、すべてのパッチを即時適用するのは物理的に不可能です。
  • アセットおよびサードパーティ接続の「リアルタイムの可視化」:
    • 自組織が利用しているハードウェア、公開Webアプリケーション、利用しているサードパーティSaaS、委託先ベンダーとの接続口を正確にカタログ化(棚卸し)します。
  • 悪用実績(レシーバビリティ)に基づくパッチの優先順位付け:
    • 単に「新しい脆弱性」を追うだけでなく、CISAのKEV(実悪用が確認された脆弱性)リストや脅威インテリジェンスを活用し、「直近で実際に野生(In the wild)の攻撃者グループによって悪用されている脆弱性」のパッチ適用を優先します。
    • 数年前の古い重要脆弱性が急にスキャン・悪用されるケース(回帰性脆弱性)があるため、パッチ未適用の古いバックログも体系的に解消します。

5. 対話型の「音声・チャット型ソーシャルエンジニアリング」を想定したプロセス・訓練

フィッシング対策は「メールの受信トレイ」の境界をはるかに越えています。
  • ヘルプデスクやカスタマーサポートのプロセス強化:
    • 攻撃者は電話(音声フィッシング/Vishing)やMicrosoft Teamsなどのチャット要求を用いて「ITの緊急事態」を装い、従業員を直接操作(MFAの解除、デバイス登録、パスワードリセットなど)しようとします。
    • 「メールが本物か見分ける」といった訓練だけではなく、ITヘルプデスクなどのスタッフが安易に親切に対応しないよう、厳格なアイデンティティ確認、多重の承認フローなどビジネスプロセスに基づいたルールを確立します。
  • 従業員のプライベート(BYOD等)でのリテラシー推進:
    • 攻撃者が従業員の個人PCやアカウントに侵入し、そこから企業資格情報を盗み出すケースが多発しているため、個人デバイスでの振る舞いや安全な Git リポジトリの扱いについて従業員教育を行います。

6. レジリエンスの能動的(Active)な検証・ハント

静的な防御ツールの導入だけでなく、実際に「攻撃が進行している」状況での体制テストを実務へ統合します。
  • プロアクティブな脅威ハンティング(脅威ハント)の制度化:
    • 正規管理者ツールを悪用したLiving off the Land(LotL)活動、不審なWMI実行、PowerShellアクティビティ、またはログ削除操作(アンチフォレンジック)を検知するためのログ監視体制を構築し、ツール依存を脱却して「能動的に異常な動きを探す」アプローチにシフトします。
  • AD、ハイパーバイザー、復旧プロセスを含めたテーブルトップ演習(机上訓練):
    • 「ADが全面的に破壊され、認証認証基盤ごと新規にADの構築が必要(グリーンフィールド復旧)」になる最悪のシナリオや、「ヘルプデスクの運用が攻撃者にハッキングされる」などの現実に即したシナリオに基づき、定期的に意思決定プロセスのテストを行います。

 

まとめ

SCSKでは、サイバーセキュリティ脅威報告書から攻撃者の重要トレンドを理解し、防御側が取るべきセキュリティ施策を、お客様の現在のIT環境に合わせて、ご提案いたします。

その中でも、最も費用対効果の高い ゼロトラストに基づくネットワークセグメンテーションであるマイクロセグメンテーションをオススメしております。
”1.アイデンティティ防御と最小権限の徹底”、”3. 構造的な「封じ込め」と「復旧能力(レジリエンス)」の確保”、”4. 実用的な脆弱性管理とアセット可視化”に特に効果があります。

そして、次世代マイクロセグメンテーション Zero Networks は、これまでのレガシーなマイクロセグメンテーションとは異なり完全エージェントレス型で即日導入が可能で、AIによる通信学習とポリシーの自動作成を行い、ネットワーク層でRDP、SSHなどの管理ポートをデフォルトで閉鎖し、アクセス時にJust-In-Time(JIT)でMFAを要求する仕組みを適用することでラテラルムーブメントを防ぎます。

Zero Networks については、この技術ブログでも取り上げております。ご興味をもられたら、ぜひ当社へお問い合わせください。

また、2026年9月17日に、次世代マイクロセグメンテーション Zero Networks と、マイクロセグメンテーションと組み合わせることで完全なゼロトラストを実現するSASE(Secure Access Service Edge、サッシー)、これまでのレガシーなウィルス対策ソフト(エンドポイントセキュリティ)と異なり、AI ディープラーニング(深層学習)を利用し高い検知率を誇る次世代エンドポイントソリューション、そして、攻撃者が侵入後に真っ先に狙うバックアップデータを安全に保護し、確実な復旧を早期に実現する ゼロトラストデータ保護ソリューション など、ゼロトラスト実現に向けたフロンティアAI時代のベスト・オブ・ブリードとして、4つのセキュリティソリューションを紹介するオンラインセミナー(無料)を開催しますので、お時間の都合がつけばぜひご参加ください。

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