セキュリティ製品の脆弱性と向き合う: 他社EPP事案から考えるDeep Instinctのアーキテクチャ的優位性

みなさん、こんにちは。 SCSKの石井です。
最近、業務の合間に各ベンダーのセキュリティアドバイザリを巡回するのが日課になっているのですが、2026年5月に入ってまた一つ、営業として背筋が凍るようなニュースが飛び込んできました。

某他社製、有名EPPをはじめとする一連のエンドポイントセキュリティ製品群において、複数の深刻な脆弱性(リモートコード実行や権限昇格など)が確認されたというアナウンスです。これを受けて、お客様や社内、グループ会社、エンジニア界隈からは「やっぱりあのEPP危ないの?」「うちが入れているDeep Instinctとか他メーカーは大丈夫なの?」といった声が少なからず聞こえてきました。

今回は、いちセキュリティエンジニアの視点から、「なぜ守るべき側のセキュリティ製品がこれほど頻繁に狙われ、脆弱性が発覚するのか」、そして「Deep Instinctのような新興のディープラーニング特化型製品は同様の攻撃を受けたことがないのか、それはなぜか」について、技術的な構造比較を交えながら本音で考察してみたいと思います。

🚨 今回の前提知識:2026年5月発覚のT社脆弱性事案
対象はTrendAI™ Apex One、Trend Micro Apex One as a Service、そしてTrendAI Vision One™
Endpoint Securityなど。脆弱性を悪用された場合、最悪のケースとして攻撃者に最上位権限を奪取さ
れ、エンドポイントの監視を無効化されたり、環境全体にランサムウェアを流し込まれたりするリスク
が存在します。すでにベンダーから修正パッチが提供されているため、運用者は一刻も早い適用が求め
られています。

1. セキュリティ製品が「最大の標的」になる技術的な裏事情

まず大前提として共有したいのは、「T社だから脆弱性が出た」わけではない、ということです。
私たち現場の人間からすると、その他有名EPP及び有名EDRなど、名だたるセキュリティベンダーの製品はすべて、過去に何度も深刻な脆弱性を突かれたインザワイルド(実環境での悪用)の攻撃を経験しています。

では、なぜサイバー攻撃者はOSや一般的なアプリケーションではなく、わざわざセキュリティ製品を執拗に狙うのでしょうか?そこには明確な「技術的インセンティブ」があります。

理由①:カーネルモード(リング0)で動作する強大な権限

WindowsをはじめとするOSには、プログラムの実行権限を分離する「特権リング構造」が存在します。ブラウザやビジネスアプリが動くのは権限の弱い「ユーザーモード(リング3)」ですが、セキュリティ製品(特にアンチウイルスやEDRのコア部分)は、OSの最深部である「カーネルモード(リング0)」で動作するファイルシステムフィルタードライバーを持っています。

攻撃者の視点に立つと、ユーザーモードのアプリをいくらハッキングしても、OSの機能や他のアプリを自由に操作することはできません。しかし、セキュリティ製品のバグを突いてカーネルモード内でのコード実行(RCE)に成功すれば、OSそのものを完全に合法的に乗っ取ることが可能になります。つまり、セキュリティ製品の脆弱性は、攻撃者にとって「最高権限を一撃で奪取できるプラチナチケット」なのです。

理由②:BYOVD(Bring Your Own Vulnerable Driver)攻撃の台頭

近年のトレンドとして、セキュリティ製品そのものを直接ハッキングするだけでなく、**「過去に脆弱性が存在した、ベンダーの正規のデジタル署名付きドライバー」**を攻撃者がわざわざターゲットの端末に持ち込んでインストールする手法(BYOVD)が多発しています。※”BYOVD”については次回ブログに掲載。

OS側は「信頼された大手セキュリティベンダーの署名があるから」と実行を許可してしまいますが、攻撃者はそのドライバーが持つ既知の脆弱性を悪用してカーネル空間に侵入し、現在動いている他社の防御ソフトをメモリ上から強制終了させます。大手メーカーの製品ほど、過去のドライバー資産が多く、この手の攻撃の材料にされやすいという皮肉な現実があります。

2. 製品アプローチによるアタックサーフェス(攻撃対象領域)の違い

ここで、今回名前が挙がった従来型のEndpoint Protection(EPP/EDR)と、Deep Instinctが採用しているPredictive Prevention(予測防御)の技術的な構造差を見てみましょう。この差がそのまま「脆弱性の生まれやすさ(アタックサーフェス)」に直結しています。


【図1:従来型セキュリティ vs Deep Instinct のアタックサーフェス比較】

従来型製品の宿命:「パース(解析)処理」の多さとコードの肥大化

有名EPPを含む従来型のエンドポイント製品は、長年にわたる機能拡張の結果、非常に巨大な「複合システム」になっています。シグネチャ(パターンファイル)によるスキャンだけでなく、未知の挙動を監視する振る舞い検知、ヒューリスティック解析、さらには資産管理やUSB制御、クラウドサンドボックスとの連携モジュールなどが絡み合っています。

特に危険なのが、ダウンロードされたファイルやメールの添付ファイルを「スキャン(パース)する処理」です。圧縮ファイルを解凍したり、複雑なバイナリデータを読み込んだりするプログラムは、バグ(バッファオーバーフローなど)が最も混入しやすい部分です。攻撃者は、スキャンさせるための「壊れた偽装ファイル」を送りつけるだけで、スキャンエンジン自体をクラッシュさせたり、内部で不正なコードを実行させたりすることができます。

3. Deep Instinctはなぜ脆弱性攻撃の話を聞かないのか?

結論から言うと、**Deep Instinct自体が「製品の脆弱性を突いた実攻撃によって直接突破された」という公的 な報告や大規模なアドバイザリは、現時点(2026年5月)において確認されていません。**

なぜDeep Instinctはこれほど静かなのか、その理由をエンジニア目線で深掘りします。理由は大きく分けて3つあると考えています。

理由①:『実行前(Pre-execution)』に特化した圧倒的にシンプルなコードベース

Deep Instinctの最大の特徴は、ファイルが実行される前の「静的バイナリ構造」を、ローカルにあるディープラーニング(深層学習)の予測モデル(脳細胞のようなニューラルネットワーク)に通して一瞬で判定する点にあります。

従来のアンチウイルスのように「ファイルを細かく解凍して、特定のマクロコードが含まれているかチェックして、クラウドに問い合わせて…」といった複雑な解析ステップを踏みません。PEファイル(Windowsの実行ファイル)やOfficeマクロの構造を「マクロな特徴量」としてそのままニューラルネットワークに入力するだけなので、**複雑なパース処理のコードそのものが不要**になります。コードベースがシンプルであるということは、理論上、脆弱性が混入する絶対的な確率が劇的に低いことを意味します。

理由②:通信とアップデートの頻度が極小

多くのEDRや次世代アンチウイルス(NGAV)は、1日に何度もパターンファイルを更新したり、クラウド上の脅威インテリジェンスとリアルタイムでAPI通信を行ったりします。この「外部との通信チャネル」や「受け取ったデータの処理」もまた、脆弱性の温床になります。

Deep Instinctは、年に数回、数MB程度の「学習済みモデル(D-Brain)」をアップデートするだけです。日常的なシグネチャ更新が一切不要なため、外部から流れてくるデータに対するインターフェースが極限まで絞り込まれています。これによってネットワーク層やデータハンドリング層におけるアタックサーフェスがほぼ潰されているのです。

理由③:攻撃者の「経済合理性(コスパ)」の問題

身も蓋もない話をすると、攻撃者(ハッカー集団)もビジネスで動いています。彼らが数ヶ月から数年という時間をかけてセキュリティ製品のゼロデイ脆弱性を探す際、選ぶのは「導入シェアが圧倒的に高い製品」です。比較項目巨大ベンダー(TrendAI / Defender等) Deep Instinct(ディープラーニング特化型)

ハッカーからすれば、世界中で使われているTrendAIやMicrosoft Defenderの脆弱性を見つけた方が、攻撃の成功確率もリターンも桁違いに大きくなります。Deep Instinctが狙われにくいのは、高度な設計思想だけでなく、**「攻撃者にとってまだコスパが悪い標的である」**という防壁に守られている側面も否定できません。

4. 現場のセキュリティ担当者が今、本当にすべきこと

ここまでの話を聞くと、「じゃあやっぱりDeep Instinct最強じゃん、全部それにリプレイスしよう!」となりがちですが、インフラ運用の現場を預かる身としては、その結論は少し危険だと言わざるを得ません。

💡 運用者が肝に銘じるべき「セキュリティの鉄則」
『100%絶対に脆弱性が発生しないソフトウェアは存在しない』
どんなに洗練されたDeep Instinctであっても、将来的に未知のバグや、ディープラーニングのアルゴリ
ズムそのものを欺く「敵対的サンプル(Adversarial Examples)」によるバイパス手法が確立されない
とは言い切れません。製品の「強さ」を過信して運用を疎かにすることが、最大のセキュリティリスク
です。

今回のTrendAIの脆弱性事案から、私たちが学ぶべき真の教訓は以下の3点です。

① セキュリティ製品のアドバイザリこそ「最優先」でパッチ適用する

OSやブラウザのアップデートは定期的に行うのに、セキュリティ製品のクライアントや管理サーバー(コンソール)のアップデートを「不具合が怖いから」と後回しにしているケースをよく見かけます。これは最も危険な状態です。今回の他社有名メーカーのニュースのように、ベンダーがアラートを出したということは、すでに攻撃者がその脆弱性の詳細を把握しているか、あるいは実際に攻撃を開始している(Active Exploitation)サインです。何よりも優先してパッチを当てましょう。

② 単一の製品、単一の「レイヤー」に依存しない(多層防御の再定義)

今回のように、エンドポイントの防御製品そのものが突破される、あるいは無効化されるリスクを考慮すると、やはり「ネットワーク層(SASE/次世代ファイアウォール)」や「アイデンティティ層(認証・認可の強化、MFA)」など、別のレイヤーでのチェックポイントが必須になります。仮に端末のアンチウイルスが脆弱性を突かれて黙らされても、不審な外部通信(C2サーバーへのビーコニング)をネットワーク側で検知して遮断できれば、実害は最小限に抑えられます。

③ 「運用コスト」を含めた製品選定を行う

従来型の製品は、機能が多い反面、今回のような脆弱性対応のパッチあてや、パターンファイルの不具合による誤検知(ブルースクリーン問題など)といった「運用の維持コスト」が高くなる傾向があります。一方でDeep Instinctのような製品は、運用が極めてシンプルであるため、情報システム部門の人的リソースが限られている組織にとっては、**「脆弱性対応に追われるリスクを減らす」という隠れた導入メリット**があると言えます。

5. まとめ

今回の話をまとめます。TrendAIをはじめとする大手メーカーが狙われるのは、彼らの技術力が低いからではなく、**「強大な権限を持ち、かつ世界中で使われているため、ハッカーにとって最大の獲物だから」**という構造的な問題です。

Deep Instinctがこれまで同様の深刻な攻撃を受けていないのは、**「実行前防御に特化した極めてシンプルなアーキテクチャ」によってバグの混入を防いでいること**、そして**「ハッカーにとって標的としてのコスパが(まだ)低いこと」**という2つの防壁があるからです。

私たちSireは、特定の製品を盲信するのではなく、それぞれの製品が持つ「技術的構造」と「アタックサーフェス」を正しく理解し、万が一の脆弱性発覚時にも迅速に動ける運用体制を作っておくこと。それこそが、日々進化するサイバー脅威に対する唯一の正解なのだと思います。
皆さんの現場では、既存EPP/EDRのパッチ適用、もう終わりましたか?まだの方は、この記事を読み終えたらすぐに管理コンソールをチェックしに行ってくださいね!それでは、また次回の記事でお会いしましょう。

■ディープラーニングによる予防型エンドポイントセキュリティに興味をお持ちの方へ 

本記事でご紹介したディープラーニング(深層学習)による革新的な防御思想を、実際のプロダクトとして体現し、多くのお客様の環境を守っているのが、SCSKが取り扱う「Deep Instinct(ディープインスティンクト)」です。 
従来のセキュリティ運用(EDRなど)に限界を感じている方、未知のランサムウェア対策を強化したい方は、ぜひ以下の製品詳細ページをご覧ください。 

次回の記事では、「似て非なる「BYOD」と「BYOVD」:名前はそっくりでも脅威インシデントの次元が違う話」について詳しく説明します。 

・製品詳細・お問い合わせ(SCSK): Deep Instinct | SCSK株式会社 (Deep Instinct(ディープインスティンクト) | SCSK株式会社) 

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