こんにちは。SCSKの磯野です。
Google Cloud Next ’26 in Las Vegas Day1の基調講演が終わったので、内容をざっと整理してみました。
普段はMicrosoft(Fabric / Foundry)とGoogle Cloudの両方を触っている立場なので、「これってMicrosoftだとどういう位置づけ?」という観点で見た内容をまとめています。
1日目の基調講演「Opening keynote: The agentic cloud」の速報的なまとめですが、GoogleとMicrosoftにおけるAI×データ基盤の比較をしながら考察していきます。
なお、本記事では基調講演の内容を網羅的にまとめるのではなく、特に気になったトピックに絞って抜粋しています。また、Day1終了直後の速報ベースの内容のため、今後のアップデートにより解釈が変わる可能性があります。
Gemini Enterprise Agent Platform の登場
Gemini Enterprise Agent Platformとは、AIエージェントの構築、スケーリング、ガバナンス、最適化を行うための包括的なプラットフォームです。これは従来のVertex AIを進化させたものであり、モデルの選択や構築機能に加えて、エージェントの統合、DevOps、オーケストレーション、セキュリティなどの新機能が統合されています。
Model Gardenを通じて、Gemini 3.1 Pro、Gemini 3.1 Flash Image、Lyria 3などのGoogleの最新モデルや、AnthropicのClaude Opusといった200以上の主要なサードパーティモデルにアクセスできるのが特徴。Anthropic社のClaude Opus 4.7のサポートも追加されました。
Gemini Enterprise app の登場
Gemini Enterprise app は、すべての従業員があらゆるワークフローにおいてAIを利用できるようにするための「AIへのフロントドア(入り口)」として機能するアプリケーションです。AIを単なる個人の生産性向上ツールから、ビジネスのための安全で協調的、かつ自律的なエンジンへと進化させ、チームがAIエージェントを発見、作成、共有、実行できる単一の環境を提供します。
- Projects(プロジェクト)
プロジェクト機能を使うと、エージェントの記憶領域はチームが追加したファイルや会話に限定されます。GoogleドライブやNotebookLMなどと連携することで、特定テーマに特化した知識を持ち、日々の要点共有 / 状況サマリーを効率的に提供できます。 - Canvas
Gemini Enterpriseに直接組み込まれたインタラクティブエディター。チームでドキュメントやスライドを単一の画面で作成・編集できます。さらに、Microsoft 365との相互運用性も追加され、Canvasで作成したドキュメントやスライドを一般的なMicrosoft Office形式にエクスポートできるようになりました。 - クロスプラットフォーム対応の統合インテリジェンス
Gemini Enterpriseは、断片化されたデータ環境全体にわたって統合インテリジェンスを提供します。データがGoogle Workspace、Microsoft 365、その他のビジネスアプリケーションに存在していても、Gemini Enterpriseはネイティブのアクセス許可を厳密に尊重するため、企業のガバナンスやユーザーアクセス制御を損なうことなく、チームが強力なインサイトを得ることができます。
Gemini Enterprise(旧Agentspace)は、Gemini Enterprise Agent PlatformとGemini Enterprise appで構成されるエージェント時代のエンドツーエンドシステムとなりました。
Gemini Enterprise と M365 Copilotの比較
Gemini Enterpriseは、その役割としてM365 Copilot(Workタブ)に近いプロダクトと捉えることができます。
Gemini EnterpriseはGoogle Workspaceに加え、Microsoft 365ともコネクタで接続できるのが特徴です。一方で、M365 CopilotもGoogle Driveとの連携が可能です。
Gemini Enterprise(Google Workspace / M365連携)と、M365 Copilot(ネイティブ / Google Drive連携)の4パターンについて、連携レベルの観点で比較を行いました。
| 連携レベル | サービス例 |
|---|---|
| 読むだけ・操作不可 ※RAG(ナレッジ検索) |
CopilotのGoogle Drive連携 ・インデックスして検索 ・要約・引用 |
| 読む+少し操作できる | Gemini Enterprise(M365連携) ・リアルタイムにデータ参照 ・メール送信やチャット投稿など一部アクション可能 ・SaaS横断で使える |
| フル操作可能 | Microsoft Graph統合(Copilot本体) ・メール・会議・Teams・ファイルの理解・操作 ・人・会話・履歴・関係性まで把握 Gemini Enterprise(Google Workspace) →どちらも機能としては似たようなことが実現可能。 Copilot(Microsoft Graph)では、人/会話/会議/ファイル/タスク 等、全部が1つのデータモデルに統合されており、関係性が“構造として”存在する。 Gemini Enterpriseにて、Microsoft Graph ネイティブのような全体一体感があるかは未確認。 |
Agentic Data Cloudの登場
Agentic Data Cloudとは、従来の人間のスケールに合わせて構築された静的なデータリポジトリ(システム・オブ・インテリジェンス)を、エージェントのスケールに合わせて最適化された動的な推論エンジン(システム・オブ・アクション)へと進化させた、AIネイティブな新しいデータアーキテクチャです。思考と行動のギャップを埋め、AIエージェントが企業のビジネスデータやコンテキストを正確に把握し、自律的に行動するための基盤となります。
- Apache Icebergを標準とするCross-Cloud Lakehouseは、AWSまたはAzure(今年後半に提供開始予定)にデータを保存したまま、ベンダーロックインの煩わしさやデータ移行コストをかけずに、瞬時にクエリを実行できるレイクハウスです。Databricks、Palantir、Salesforce Data360、SAP、ServiceNow、Snowflake、Workdayなど、アプリケーション、オペレーティングシステム、AIプラットフォームへのコピー不要のアクセスを提供します。
- Data Agent Kit拡張機能(プレビュー)は、データエンジニアなどの実践者向けに提供されるツールキットです。VS Codeなどの使い慣れた開発環境に直接組み込むことができ、「顧客の解約を予測したい」といった自然言語の意図を伝えるだけで、自律的にデータパイプラインを構築しモデルをデプロイします。
- Agentic Defenseとは、AIのライフサイクル全体を保護し、組織が「マシンスピード(機械の速度)」で脅威に対処できるようにする自律型のサイバーセキュリティプラットフォームです。Googleの脅威インテリジェンスおよびセキュリティオペレーション(SecOps)と、Wiz社のクラウドおよびAIセキュリティプラットフォームを統合し、コードからクラウド、ランタイムに至るまで、ハイブリッド環境やマルチクラウド環境の脅威の予防・検出・対応を自律的に行います
- 高精度のハイブリッド検索: Google検索の高度なクエリ書き換えや機械学習技術を応用し、セマンティック検索と語彙(字句)マッチング、インテリジェントな再ランキングを組み合わせて、エージェントのプロンプトに対し最適なコンテキストをリアルタイムで提示します。
- アクセス制御を認識した検索(Access control-aware search): 各ソースシステムで定義されたアクセス権限(IAMポリシーなど)を厳格に遵守します。これにより、エージェントは自身にアクセスが許可されたデータのみを取得・実行でき、情報漏洩を防ぎます。
- 測定可能なコンテキスト評価: 提供されるコンテキストの関連性や品質を定量的にテストし、継続的に最適化するための評価フレームワークが備わっています。
- Knowledge Catalogは、ユニバーサルコンテキストエンジンです。技術者向けに手動で構築されていた従来のデータカタログ(Dataplex)から進化し、AIエージェントのハルシネーション(幻覚)や遅延を防ぐために、データ資産やビジネスのコンテキスト(文脈)を動的かつ常時提供する基盤として機能します。仕組みは以下の通り。
1. 統合(Aggregation):データ環境全体にわたるコンテキストの一元化
エージェントが正確なコンテキスト(文脈)を理解できるよう、あらゆる場所に散在するデータと定義を一つにまとめ、矛盾を解消する仕組みです。- 広範なメタデータの統合: BigQuery、AlloyDB、Spanner、LookerといったGoogle Cloudのシステムだけでなく、AtlanやCollibraなどのサードパーティ製カタログからも技術的なメタデータを自動で収集します。
- エンタープライズ接続: Google Cloud Lakehouseを活用し、Palantir、SAP、Salesforce Data360、Workday、ServiceNowといった外部のビジネスアプリケーションやAIプラットフォームのデータにも直接接続し、一元的な可視性を確保します。
- ビジネスロジックの統一: 戦略ドキュメントを読み込んで自動でセマンティクスを生成する「LookML Agent」や、SQLエンジンにビジネスロジックを直接埋め込む「BigQuery measures」により、組織全体で統一された定義を適用します。
2. 継続的な強化(Continuous Enrichment):継続的な学習による意味づけ
手動でのデータ整理に頼らず、バックグラウンドでデータのプロファイリングや使用状況ログの分析を行い、常にデータを最新で意味のある状態に保つ仕組みです。- Smart Storageによる非構造化データの処理: Google Cloud Storageにファイル(画像やPDFなど)が保存された瞬間に、自動でタグ付けとメタデータのエンリッチメントを行います。
- Geminiによるマルチモーダル抽出: Geminiと統合されており、非構造化データから有用なビジネス情報を特定してエンティティを抽出し、複雑な関係性を自動でマッピングします(欠落しているスキーマの自動生成なども行います)。
- 自動化されたコンテキストのキュレーション: データセットや関係性に関する自然言語の記述、ビジネス用語集を自動生成します。さらに、エージェントのハルシネーションや誤ったSQL結合を防ぐため、検証済みのSQLパターンなども提供します。
3. 検索と取得(Search and Retrieval):高精度かつ安全な情報の引き出し
自律型エージェントが推論を行う際に、膨大なデータの中から必要なコンテキストをリアルタイムかつ低遅延で、セキュリティを保ちながら抽出する仕組みです。 - エンタープライズインサイト向け Deep Research Agentは、前述のKnowledge Catalogと連携した自律型エージェントです。Gemini EnterpriseのDeep Researchは、既に社内ドキュメントやウェブ検索、SaaSシステムと連携してビジネスデータを統合していますが、今回BigQueryなどのデータプラットフォームにも接続し、構造化データと非構造化データの両方を網羅的に把握できるようになりました。これにより、「サプライチェーンの混乱の根本原因は何ですか?」や「この地域の財務監査を実施できますか?」といった複雑なビジネス上の疑問にも答えることができ、従来は数週間の手作業が必要だった引用や精度の高い分析結果も提供できるようになります。
Deep Research Agentと Microsoft IQシリーズの比較
「サプライチェーンの混乱の根本原因は何ですか?」のような問いに対して、構造化・非構造化データを組み合わせて根拠付きで回答するユースケースは、Deep Research Agentだけでなく、Foundry IQ×Fabric IQでも実現可能です。
そのうえで、Microsoftはオントロジーを扱える点に強みがあります。
Fabric IQでは、ontologyによって業務概念(business concepts)を定義し、データやエージェントがその意味に基づいて回答します。これにより、「部品遅延」「在庫逼迫」「輸送停止」「仕入先変更」といった関係性を企業共通のモデルとして固定し、一貫性のある回答が可能になります。
一方で、GoogleのDeep Research Agentは、すぐに使える点で強みがあります。複数のデータソースを横断して調査し、アドホック的に根拠付きのレポートを生成する用途に適しています。
使い分けとしては以下のようなイメージです。
- 横断的に調査してレポートを得たい場合は Google(Deep Research Agent)
- 業務用語や因果関係を定義し、安定して回答させたい場合は Microsoft(Foundry IQ × Fabric IQ)
まとめ
今回の発表から、GoogleとMicrosoftはいずれも「AIエージェントを前提としたデータ基盤」へと進化していることが分かりました。
中でもGoogleは、エージェント開発基盤としての強みを感じました。
Gemini Enterprise Agent Platform + Gemini Enterprise app + Agentic Data Cloud をひとつの統合スタックとして提示し、「エージェントを作る・つなぐ・運用する」ための基盤として打ち出されていました。
一方 Microsoft は、Work IQ / Foundry IQ / Fabric IQ を通じて、業務におけるコンテキスト(文脈)と業務意味(セマンティック)を共有レイヤーとして整備する方向が強みです。特にFabric IQ は オントロジーで関係性・ルール・意味を固定することが可能です。
Google は「エージェントを作る・つなぐ・動かす」側が強く、Microsoft は「意味を定義し、安定して答えさせる」側が強い と言えそうです。
実務的には、横断探索やマルチクラウドなエージェント開発は Google、業務語彙を統治しながら定着運用するなら Microsoft、という使い分けをするのがよさそうです。




