こんにちは。SCSKの石井です。
このところ、生成AIの話題を聞かない日は本当にないですね。
仕事でも私生活でも「とりあえずAIに聞いてみるか」が当たり前になってきて、便利さに驚く半面、ちょっとした雑談まで妙にそれっぽく返ってくると、逆に人間側が試されているような気もします。もっとも、こうした進化を面白がっているのは私たちだけではありません。
攻撃者もまた、同じように新しい武器として取り込んでいます。そこで今回は、マルウェア対策の評価そのものを見直すべき理由について、少し踏み込んでお話しします。

1. いま評価軸を誤ると、なぜ危険なのか
セキュリティ製品の評価では、つい「何件止めたか」「検知率が何%か」という見栄えの良い数字に引っ張られがちです。ですが、2026年の攻撃は、単純な“既知のマルウェアを当てるゲーム”ではありません。ランサムウェア侵害は依然として大きく、Trend Microの2026年版レポートでは、上位10グループに紐づく確認済み侵害件数が2024年の1,518件から2025年には5,096件へ増加したと整理されています。加えて、同レポートでは未パッチ脆弱性がアクティブな攻撃パスの最大要因として示され、公開IPが主要な侵入口資産タイプとされています。つまり、現実の攻撃は“検体を取ってくる”前に、脆弱性管理と露出面のほころびから始まっているわけです。
Deep Instinctの2017年記事が今も示唆的なのは、この本質が色あせていないからです。同記事では、オープンリポジトリからランダムに集めた約13万サンプルのうち、Windows環境の評価に妥当な悪性サンプルは34.28%だったと述べています。残りは誤検知起因、PUA類似、あるいは比較評価に不向きなファイルが混在していた可能性がある、という指摘です。古い記事ではありますが、“母集団設計を誤れば、きれいな数値ほど危ない”という論点は、むしろ今のほうが重いと感じます。
公開検体だけの評価実運用の攻撃現場あるべき評価設計既知サンプル中心分類ゆらぎが混在侵入前後の文脈が薄い“高検知率”が出やすい未パッチ脆弱性公開IP・公開資産リンク起点の侵入防御回避・横展開検証済みサンプル侵入経路を含む想定未知・準未知の観点運用負荷込みの比較独自図:検体単体の正答率だけでは、攻撃面の実態を再現しにくい
2. 公開マルウェア検体だけに頼る評価の3つのズレ
ズレ1:母集団の質が一定ではない
公開リポジトリは脅威インテリジェンスや研究用途では有用です。
ただし、比較評価にそのまま流用すると、目的外ファイル、分類のばらつき、環境依存の差異が混ざりやすくなります。評価に必要なのは量ではなく、妥当性です。
ズレ2:侵入の文脈が抜け落ちる
近年の攻撃は、メール、悪性リンク、公開資産、認証情報の悪用など、前段の侵入設計が重要です。
Proofpointの2026年レポートでは、インシデントの47%が悪性リンクから始まったとされます。検体だけでは入口の巧妙さを評価しきれません。
ズレ3:運用現場の負荷が見えない
既知検体への反応だけでは、誤検知時の調査量、隔離後の手順、復旧前提の判断、CSIRTの共有設計まで見えてきません。
FIRSTのMalware Analysis Frameworkが重視するのは、収集・優先順位付け・分析・共有まで含めたワークフローです。
補足:未知脅威への視点が薄くなる
Deep Instinctの記事でも、既知マルウェアは相対的に難易度が低く、未知マルウェアや自前生成サンプルを含めるべきだと提案しています。
2026年の攻撃面を考えれば、この視点はより実務的です。
比較で見ると、何が足りないのか
| 観点 | 公開検体中心 | 実務に近い評価 |
|---|---|---|
| サンプルの信頼性 | 量は集めやすいが分類の揺れが残る | 検証済みデータセットを軸にできる |
| 初期侵入の再現 | 弱い | リンク、公開資産、認証情報悪用を想定可能 |
| 未知脅威への視点 | 薄くなりやすい | 未知・準未知・新規TTPを織り込める |
| 運用負荷の把握 | しにくい | アラート、分析、封じ込めまで見える |
| 経営判断への有効性 | 見かけの数字に寄りやすい | 現実の防御設計に接続しやすい |
3. 2026年の脅威環境が突きつける“評価設計の再考”
2026年のセキュリティ文脈を語るうえで、攻撃者がAIをどう使っているかも無視できません。ただし、ここは煽りすぎないほうが良い。現時点で確認できる公開情報としては、Proofpointの調査で、ランサムウェア被害組織の65%が「AI利用によって攻撃がより効果的になった」と認識し、40%は攻撃が正当に見えすぎて従業員が疑わなかったと回答しています。ここから言えるのは、“AIが全部を変えた”ではなく、“人に見抜かれにくい入口がさらに洗練された”という現場目線の変化です。
Trend Microのレポートでも、2025年のXDRモデルヒットで「アンチウイルス無効化の可能性」が上位となり、防御回避の比重が高まっていることが示されています。要するに、止める/検知する以前に、攻撃側は“見つかりにくく進む”ことへ最適化をかけている。であれば、製品評価もまた「既知サンプルに強いか」だけではなく、「未知に対してどこまで事前予測型か」「侵入前後のどこで潰せるか」を見るべきでしょう。
4. Ivanti事案から読み解く、検知より前の勝負
2026年のIvanti EPMM関連の情報は、「攻撃は製品比較のグラフでは始まらない」ことを思い出させます。Ivantiの2026年5月7日付ブログでは、EPMM向けの重要なセキュリティ更新を公表し、CVE-2026-6973については管理者認証を要する限定的な悪用を把握していると説明しています。また同社は、AIを開発・製品セキュリティ工程へ取り込みつつも、人間の検証を挟む責任ある運用を強調しています。ここで重要なのは、脆弱性そのものよりも「見つける速度」「修正する速度」「利用者が追随する速度」の勝負になっている点です。
加えて、2026年1月に公表されたEPMMのゼロデイ2件(CVE-2026-1281、CVE-2026-1340)については、検索結果ベースでも公的アラートや複数メディアが重大性と実悪用を報じています。ここから一般化できる教訓は、特定製品を攻撃的に論じることではなく、モバイル管理基盤や公開資産のような“事業継続に直結する管理面”こそ、未パッチ期間の露出が大きなリスクになるという点です。
IvantiエンタープライズIT運用・管理領域で広く使われる製品群を持つベンダー2026年に読み取れるポイント・重要なのは“誰が狙われたか”より“管理基盤の露出がどう連鎖するか”・パッチ適用の速度差が、被害の差になりやすい事例そのものを煽るのではなく、ゼロデイ対応の“組織設計”を見る発見脆弱性の存在を認識できるか修正公開・配布・適用指示を素早く回せるか追随利用者側が棚卸し・優先順位付け・適用を完遂できるか評価の観点に置き換えると✓ 公開資産の把握✓ 未パッチ期間の露出管理✓ 侵入前に潰す予防力
5. 企業が評価時に持つべき現実的なチェックポイント
では、何をもって“まっとうな評価”と見るべきか。私は少なくとも次の5点は外せないと考えています。
- 検体の出所と検証条件が明記されているか。 量だけでなく、何を除外し、何を代表母集団としたのかが見えること。
- 既知だけでなく未知・準未知の観点が入っているか。 既知サンプルの当て物だけでは、いまの攻撃面に追いつきません。
- 侵入経路と露出面を含めて設計しているか。 悪性リンク、公開資産、未パッチ脆弱性、認証系の悪用などを無視しないこと。
- 運用負荷まで比較しているか。 検知後の分析工数、誤検知の重さ、共有・封じ込めの速度も重要です。
- 経営に説明可能なロジックになっているか。 “高い検知率”ではなく、“なぜその評価が事業に効くのか”まで翻訳できること。
6. まとめ:評価の精度が、そのまま守りの質になる
公開マルウェアリポジトリは、研究や初動の参照先としては価値があります。ですが、それだけで製品比較やPoCの結論を出すのは、2026年の現実には少し危うい。いま見直すべきは、検体の量ではなく評価の設計です。未パッチ脆弱性、公開資産、リンク起点の侵入、人の判断、未知脅威。そこまで含めてはじめて、評価は防御の実力に近づきます。
その意味で、Deep Instinctが以前から語ってきた「既知サンプルだけでは本当の実力は測れない」という問題提起は、いま改めて読み返す価値があります。そして、予防をどこまで前倒しできるかという観点は、今後のエンドポイント防御を考えるうえでなお重要です。より具体的に検討したい方は、SCSKのDeep Instinct紹介ページもあわせてご覧ください。製品の話に寄りすぎる前に、まず“評価の設計をどう正すか”という視点で眺めると、見え方が変わるはずです。
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