みなさん、こんにちは。 SCSKの石井です。
今回は、Deep Instinctの過去記事で紹介されていた「NSISインストーラーを悪用したランサムウェアのインストール手法」を、2026年の日本企業の実情に重ねて読み直してみたいと思います。
ひと昔前のマルウェア解析記事に見えるかもしれませんが、読んでいくと、いまの攻撃でも通用する論点がかなり多く含まれています。正規ツールの悪用、メモリ内実行、プロセス改ざん、そして防御側の可視化ギャップ。こうした要素は、AI時代のランサムウェア対策を考えるうえでも、むしろ今のほうがリアルに感じられるはずです。
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記事のポイント:NSIS悪用は「昔の珍しい手口」ではない
当時の代表的なランサムウェアとしてLockyやCerberが、NSIS(Nullsoft Scriptable Install System)インストーラーをラッパーとして悪用し、複数の回避技術を重ねながら感染を成立させていたことが解説されています。具体的には、インストーラー内部での難読化、XORによるデコード、APIの動的解決、コードインジェクション、Heaven’s Gate、Process Hollowingなどを組み合わせ、静的なファイル検査や一般的なデバッガによる解析を難しくしていました。しかも、重要な処理の多くがメモリ内で進むため、当時としてもかなり検知しづらい設計だったことがわかります。
ここで押さえておきたいのは、「NSISだから危険」という単純な話ではないことです。本質は、正規のインストーラーや正規ツールに見えるものを外側の包装として使い、その内側で悪性処理を進めるという発想にあります。元記事に出てくる技法の中には、2017年当時ほどの“目新しさ”を持たないものもありますが、正規ツールの悪用、メモリベースの実行、プロセス書き換えという軸は、2026年でも十分に現役です。
2026年の日本企業に引き寄せると、むしろわかりやすいテーマになる
日本の脅威動向を見ると、IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」では、ランサム攻撃による被害が11年連続で1位、サプライチェーンや委託先を狙った攻撃が2位、AIの利用をめぐるサイバーリスクが初めて3位に入りました。さらに、システムの脆弱性を悪用した攻撃は4位、内部不正による情報漏えい等も継続的なリスクとして挙げられています。つまり、日本企業の実務目線では、ランサムウェア対策は単に「怪しい実行ファイルを止める」話ではなく、正規ツール悪用、委託先経由、脆弱性管理、AI時代の偽装といった複数論点の交差点にあります。
世界的な傾向も同じ方向です。WEFのGlobal Cybersecurity Outlook 2026では、AIを最大の変化要因と見る回答が94%、AI関連脆弱性を最も急速に拡大するリスクと見る回答が87%、高いレジリエンスを持つ組織の78%がサプライチェーンと第三者依存を主要課題としています。攻撃者にとっては、正規ツールに似せる、あるいは正規ツールそのものを悪用する価値が以前より高くなっています。なぜなら、外形だけでは怪しく見えにくく、しかも運用現場の分業や外部依存のすき間に入り込みやすいからです。
図1:正規インストーラー悪用型ランサムウェアは、攻撃の入口が“普通”に見える
2026年の脅威レポートと重ねると、この構図はさらに鮮明になります。CrowdStrike 2026 Global Threat Reportでは、AI活用攻撃が89%増、2025年検知の82%がmalware-free、最速のeCrime breakout timeは27秒でした。Palo Alto NetworksのUnit 42 Incident Response Reportでも、初期侵入の主要因はフィッシング22%と脆弱性悪用22%、最速25%の侵害は1.2時間で情報流出、調査のほぼ90%でIDの弱点が関与、90%以上の侵害で予防可能なギャップが関与したとされています。つまり、ランサムウェアは「怪しい実行ファイル」ではなく、正規風の見た目、メモリ処理、ID悪用、横展開の速さまで含めて捉えないと、本質を見落としやすいということです。
検知・対応中心の運用だけでは、なぜ苦しくなるのか
ここは誤解なく書きたいのですが、EDRやXDR、SOCの価値が下がったわけではありません。侵害後の可視化、調査、封じ込め、復旧は、今後も間違いなく必要です。ただ、相手が正規ツールを悪用し、処理をメモリ内へ寄せ、さらにmalware-freeなふるまいまで組み合わせてくると、「入ってから見つける」だけでは現場負荷が上がりやすくなります。
元記事のNSIS事例が今でも示唆的なのは、まさにこの点です。見た目はインストーラー、内部では難読化とメモリ処理、最後にプロセス改ざん。防御側からすると、どこか一箇所だけを見ていても全体像をつかみにくい。だから2026年の論点は、検知か予防かの二者択一ではなく、多層防御の前段にどれだけ予防を置けるかにあると思います。
おわりに:NSIS悪用の話は、2026年のランサムウェア対策そのものを映している
2017年当時のNSIS悪用型ランサムウェアは、技術的に凝った解析記事として読まれがちです。ただ、2026年の視点で読むと、本当に重要なのは細かな回避技法の名前ではなく、正規に見える包装、メモリ内処理、プロセス改ざん、そして被害の高速展開という構図そのものです。
日本企業の現場でいま求められているのも、まさにこの構図への対応だと思います。更新を速くする、IDを見直す、入口を減らす、そして実行前で止める層を前段へ置く。こうした積み重ねが、結果的にランサムウェア被害の成立率を下げるいちばん現実的な方法です。
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